チャバタ

 朝起きたら隣で寝ているお前を起こさないようにそっとベッドから脱け出す。そしてデスマスクが目指すはキッチン。
 朝食はお前の好きなものを作ってやろうか。ベッドの上のアフロディーテは未だに眠りの中。無防備な寝顔だ。いや誰でも眠っている時は無防備か。
 双魚宮のキッチンも最近では何処に何があるとか嫌でも分かる位だ。そう言えば調味料が何れもこれも少なくなってきていたのを思い出す。生憎と今日は二人して執務だ訓練だで、買い出しには行けない。けれども料理には妥協したくない。人にはそれぞれ譲れないものがある。その一つはデスマスクでいう料理であった。
 巨蟹宮から取ってこれば良いのだが、如何せん朝から自宮と双魚宮を往復するのは面倒臭い。朝から光速で動くなら尚のこと。更に二段下のシュラに見付かるのはもっと面倒臭い。シュラの事だからもう起きているだろう。この時間は自主鍛練に打ち込んでいる筈だ。刃の様に研ぎ澄まされた小宇宙に、簡単に見付かることは明白。厄介なことこの上ない。どうにもあいつはアフロディーテのことを気にかけすぎている。もうそんな歳では無いというのに。
 朝日が聖域を照らす。誰にでも、何にでも、分け隔てなく平等に光が降り注ぐ。そんな朝。平和な朝だ。
「…今朝はパスタが食べたい。」
 漸く起きてきたアフロディーテは開口一番こう言ってきた。
「俺のパンじゃ不満か?」
 此処まで仕込んだんだけど?後はもう焼くだけなんだけど?
そうデスマスクも言うが、止めとばかりにこう言われてしまった。
「"君の"パスタが食べたいんだ。」
 したり顔の魚め、そこまで言われたら断れねえじゃないか。
 パンはこのまま焼いてしまって、昼に食べれば良いか…と、デスマスクはパスタが保管されている戸棚を開けた。



元はついったの140字のお題で書いたものをこっちに持って来た際に改変したものです。

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