Candy disappearance

 磨羯宮には四人の青銅聖闘士がいた。最終目的は女神アテナのお使いを完遂することだが、彼等にはそれらとはまた違った目的があった。
「もう此処まで上ってたのか。」
 自身が守護する双魚宮へ戻ろうと巨蟹宮から上ってきたアフロディーテは、青銅の子達に囲まれているシュラを微笑ましく眺めた。当のシュラはと言うと、慣れないことに少しだけ戸惑いながら、女神のお達しで急いで用意した市販の菓子を配っていた。
 シュラも勿論料理は出来る。しかしデスマスクやアフロディーテの様に菓子までは作らない。当の本人は甘党なのに、大概は市販の菓子で済ましている。そして二人から貰えればそれで良いのだと言っていた。
「すまんな、余り良い菓子を用意出来なくて…。」
「いや、こちらこそ急に来たと言うのに、こんなに菓子を貰うとは思わなかった。」
「有難うなシュラ!」
 ギリシャでは市販の菓子でも、日本から来た青銅の子達は外国の菓子という珍しさに喜んでいた。
「キグナス、鞄の中はちゃんと開けておきたまえ。」
「えっ?」
「次はカミュの宝瓶宮だからね。」
 一瞬なんのことか分からなかった氷河だが、アフロディーテの言葉を理解するのに時間は掛からなかった。
「我が師カミュはそんなに…。」
「良かったね氷河。」
 師と同じくいつもはクールに振る舞う氷河も心なしか嬉しそうだ。瞬の言葉にも嬉々とした声で返事をしていた。
 もう一度有難うと礼を述べると青銅の子達は、次の宝瓶宮へ向けて走って行く。
「アフロディーテ。」
「なんだいシュラ。」
 おもむろに名前を呼ばれてシュラへとアフロディーテは振り返る。
「…trick or treat.」
「珍しいな君がそういうことを言うのは。」
 真面目が取り柄な山羊座は、これまた真面目な面持ちで魚座にハロウィンの決まり文句を囁く。アフロディーテはそんなシュラを見てまた微笑む。
「…残念だけど、菓子は持ってない。双魚宮に行けばあるけれどね。」
「そうか…。」
 シュラの表情は余り変わらない。持ってないと分かりながら聞いてきた様でもある。本音はシュラにしか分からないのだけれど。
「……んっ…!」
 シュラの顔がアフロディーテに急速に近付いた刹那、アフロディーテの艶やかな唇にシュラは己の唇を重ねた。
 不意打ちのキスに驚いたアフロディーテは、薄く開いたそこから簡単に舌の侵入まで許してしまう。どんどん舌が入り込んで、口付けが深くなる。逃げようにも、がっちりと顎を捉えられていて、仕舞いには後頭部も押さえられた。腕力ではシュラの方が上。アフロディーテは完全に逃げ場を失ってしまった。
「ん……んっ、は…ぷぁ…ん、んぅッう…!」


「……どうしよう。」
「どうするも何も…。」
「ごめん…僕が忘れ物したばっかりに…。」
「…いやこればかりは不可抗力だ。」
 瞬の忘れ物とは兄・一輝の分のハロウィンの菓子である。先程見た時に鞄に入れ損ねた様で磨羯宮まで戻って来たまでは良かった。まさかものの数分でこんな状況に陥っているとは誰一人予見出来る訳がない。極力自分達の小宇宙を低めて部屋の様子を伺っていた。
 普段は真面目で仕事第一という感じで、こういったことに頓着が薄そうなシュラが、自室ということもあるだろうがこんなにも情熱的なキスをしているなんて……。しかも相手は八十八星座随一の美貌を持つアフロディーテである。星矢達が覗き見ている角度からは、彼が今どんな表情をしているか分からない(いや今は見えなくて良い)。
 時折聞こえてくる濡れた水音と、アフロディーテから漏れる少しだけ苦しそうな吐息。
 大人のディープキスは、十三歳と十四歳の少年達には刺激が強すぎる。四人が四人共に顔は真っ赤になっていた。無理もない話である。
「どうすれば良いんだよ紫龍…!」
「今出ていったら間違いなく聖剣だろうな…。」
「我が師カミュ…俺は、いや俺達はどうすれば…!」
「…皆…本当にごめん…。」
 …取り敢えず今は先に進もう。満場一致で星矢達は頷き合うと再び宝瓶宮を目指すのだった。



はっぴーはろうぃーん。そのに。

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