Pumpkin pie

 カレンダーは十月の三十一日。すっかり日本にもハロウィンのイベントが定着したらしい。
 女神のお使いに休日を利用して聖域にやって来た青銅のガキ共が態々仮装しているのは絶対に女神の仕業だ。ご丁寧に菓子をくれと例の言葉を言いながら、巨蟹宮の俺の私室にまで入って来やがって……。
「良いじゃないか。」
「何処が良いんだよ。ったく女神様もいらん吹聴しやがって…。」
「そう言いながら、朝からハロウィンの菓子作ってたのだろう?」
 今更そんなことないと言ったってアフロディーテにはバレてる。したり顔のコイツが腹立たしい。いやムカつくが事実、青銅のガキ共の為に作っていたのだから仕方無い。あと、我等が女神アテナの為に作ったパンプキンパイを献上しなくちゃならない。……俺もずいぶん丸くなったものだ。ほんの数ヵ月前の俺が見たら笑い転げて、親指を下に向けるな。絶対。どうしてくれるんだよアテナ様。
「それで?デスマスク私の分は何処かな?」
「あぁ?お前の分なんかねーよ。」
「trick or treat.」
「決まり文句言われたってねえっつの。」
 四人+来ていない一人の五人分の菓子はテーブルには一つも残っていない。全部あいつらにくれてやった。そう言うと、目の前のアフロディーテは少し詰まらなさそうにしていた。済まし顔も、何処と無く拗ねたような感じになる。
「食いたかったら言えよ、なんなら今から作ってや……。」
 一寸、背中を向けていて気がつかなかった。アフロディーテは俺の直ぐ隣までやってくると、触れるだけのキスをしてきた。ちゅっ…とか、俺には似合わない可愛らしいリップ音だけ残して、アフロディーテはまた黒の革張りのソファへと戻り座る。何事も無かったかの様に。いつもの澄まし顔。
「…悪戯とはやってくれるな女神様?」
「そういう日だからな。」
 したり顔が妙に色っぽいな畜生。このまま菓子を作らないで、アフロディーテからの更なる悪戯も欲しいが、パンプキンパイをご所望な様なので取り敢えず作ることにしよう。
 悪戯の続きは夜に頂こうか?


はっぴーはろうぃーん。

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