ないしょ話

 最近の聖域は妙に寒い。自宮が山頂に近いからと言うのもあるが今年のギリシアは天候が悪かった。そして今日も冷える日だというのに、この魚は相変わらず薄着だった。生まれは北欧で寒さに強いことも、暖房を付けているからそれで良いという訳でもない。とにかく本人が良くてもこちらとしては、小さい頃の様に風邪を引かれたり体調を崩されたりするのは本意ではないのだ。
 ソファーに腰掛け活字を追うアフロディーテの肩にふわりと毛布を掛けてやる。少しだけ驚いた表情を浮かべながら振り替える見返り美人。
「そんな薄着では風邪を引く」
「えー別にこのくらい平気なんだけどな」
 ぶつくさ言いながらも素直に背もたれ側に垂れていた毛布をずるずると引っ張り、くるりと身体を覆う魚。微妙に長さが足元までには及ばなかったものの、取り敢えずこれで体調を崩すことはないと思う。多分だが。
「シュラこそ寒くない?」
「俺は冬期間の鍛練で慣れているからな」
「そんなこと言って、君の手凄く冷たいじゃないか」
 毛布にくるまるアフロディーテの横に座ると、白皙の手が俺の手に触れてくる。今日の管理作業で作ったであろう真新しい切り傷が痛々しい。その手を握り返して口元に運ぶ。何をするのか……理解したアフロディーテが手を引っ込めようとしたがそうはさせない。
「シュラ、」
 慌てた声色。泳ぐ目。どんどん赤くなる頬。可愛い。自分の視線とその他諸々に耐えきれなくなったのか、アフロディーテはぎゅっと目を瞑った。刹那、彼の手の甲に唇を軽く押し付けた。
「……、え……?」
「一体、何をされると想像していたんだ?」
 今度は火が着いた様にアフロディーテの顔が真っ赤になる。目尻には涙が溜まっている。本当に可愛いらしい。皆までいうな。重症通り越して末期であることは自分が一番よく理解している。
 刹那、艶やかな唇から繰り出される彼なりに精一杯の罵詈雑言を右から左に受け流しながら、毛布ごと抱き締めてやった。
「君なんか嫌いだ」
「そうか」
「……嫌い、なんだからな」
「Jag älskar dig」
 真っ赤な耳に囁くと、アフロディーテは肩口に顔を埋め動かない。
「Jag älskar dig」
「何回も言わなくても分かるよ」
「そうか」
「……、Yo te amo」
「あぁ俺もだ」

"愛してる"

 


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