ブースかゴーディス

 朝露に濡れる彩り豊かな薔薇を横目に向かうは、薔薇達の主たる双魚宮の居住スペースだ。双魚宮内部に入る。と薔薇の甘い香りやスパイシーな香りに加えて、バターの香ばしい香りがする。
奇しくも今日という日ハロウィンである。我等が女神様が、年相応のお嬢様に戻って菓子を楽しみにしている日だ。本来のハロウィンの意味とは違うことを女神様も俺達も百も承知である。ただこう言った楽しい日があっても良いではないか……とか言ってた気がするが、あんまり良く覚えていない。
 今年も女神様が所望するならと、仕方なく、菓子を作った。今年もパンプキンパイ。他にも案はあったからハロウィンイベントが始まってからはずっと作ってきていたので、今年もそれを作ったという訳だ。断じて面倒だからではない。面倒ならば最初からパイなんて面倒なもの作ってないのだから。
さて手持ちのバスケットには女神のとは別に作ったパイがワンホール。これはアフロディーテにやるものだ。彼もまたこのパイを楽しみにしており、どちらかと言えば愛しの魚座に上げる方が気合いを入れてたりする。今のは女神には勿論内緒だ。
「よぉ、随分たくさん用意したな」
 いつも食事をするテーブルには焼き上がったクッキーの他に、カラフルなキャンディにマシュマロ、チョコレート、更にはマドレーヌまであった。女神に献上するのとは別に、黄金や白銀、青銅や幼い候補生達の分も用意したのだろう。
「マメだな」
「君には負けるけどね」
 それパンプキンパイだろう?とバスケットの中のパンプキンパイを見抜いたアフロディーテは、いそいそとお茶の準備を始めた。午前の休憩にはまだ早いが待ちきれないらしい。普段はこういったイベントには興味ない癖に、好きなものの前では正直なアフロディーテのこういうところが可愛いくて仕方ない。
「夜もこんだけ素直ならなぁ…」
 刹那、頬を掠めていく薔薇の花。寸でのところで交わした為、毒で一晩中苦しむことはなくなった。投げ付けてきたアフロディーテはというと、怒りで投げたというよりかは、照れ隠しの意味の方が強いだろうか。俺的にはどちらでも構わないが。
「おいおい切らねえのかよ?」
「どうせ私と君としか食べないのだから良いのだよ」
 出たよ、顔に似合わず大雑把なところ。他の奴らがいたらこういうことはしないのだが、俺の前ではワガママちゃんになるのだ。勿論これも可愛い。……なんとでも言え、全ては惚れた弱みだ。ダメなところまで含めた、アフロディーテの全てが可愛いくて仕方ねぇ。
アフロディーテ自体はどう思っているか分からないが、とりあえずこんな俺のことを好きっつーか……とにかく、気に止めてくれているならそれで良い。
「うん、美味しい。やはり君のパイが一番だな」
「そいつはどーも」
「何を拗ねているんだい?」
「……別に?」
「──あぁ、成る程」
「あ?」
「私の一番は君だから安心したまえ」
「…………はあ〜〜〜〜…」
 本当に、叶わねぇ。


 スウェーデン語でブースは悪戯、ゴーディスはキャンディで所謂トリトリのスウェーデン版。真ん中バースデーおめでとう!

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