ヒュエトス

 雨音が少し強くなったか。降ってくる音も、屋根を打つ音も、そこから落ちて地面を叩く音も変わらないと言えば変わらないのかもしれない。けど自分にはどうも強くなったとしか思えなかった。今この雨を降らす神さまは感情が高ぶると雨足が強くなるのだ。それは決まって、自分と逢瀬をする時で、距離が近付くとそれに伴う様に強く降る。
 グラード財団総帥の使いとしてアフロディーテがソロ家を訪れた時、雨はまた強く降っていた。使用人の案内で連れて来られたのは彼の私室。雨がまた強く降る。主の許可を得て彼の私室に入ると、アフロディーテは今世の海皇へ礼を取る。
「海皇においてはご機嫌麗しく…」
「今の私は"ジュリアン"ですよ、アフロディーテ」
 書類にサインを施す青年はまだ少しあどけさがある。しかし彼は海皇ポセイドンその人でもあった。
少し前までは依り代足るジュリアン・ソロの意識がポセイドンに飲まれていたそうだが、今ではジュリアンともポセイドンともどちらとも言える状態らしい。
「私にはどちらも余り変わりないと思うがね」
「確かにそうですが、今はジュリアンとしてここにいますので」
「…君がそういうならその通りに、ジュリアン」
 アフロディーテの気遣いに有難うと笑みを浮かべるその表情は青銅の子らと近しいものがある。年齢が近いのだから当たり前か。しかしそのせいで、極々たまにだが海界を統べる海皇だということが頭から抜ける時がある。ジュリアンからは気にしなくても良いと言われたが、やはり神に対して失礼な態度は取る訳にはいかない。
「アフロディーテ」
「……あぁ、なんでもないよ」
「なら良かった。私以外に気になる人がいたのかと思った」
 ……存外、ジュリアンは嫉妬深い。例の聖域と海界での出来事以降、財産を惜しみなく使い被災したところへの慰問に行ったりと、一言に穏やかになったとは言え、名だたる海商の一人息子故かプライドが少し高く、まだ少し我が儘な部分がある。ある意味年相応で可愛いと思う反面、変なところで海皇の癪に触れない様にしなければ…と素直に愛でれないアフロディーテがいた。
そう"神"という存在を私は未だに分からないでいる。

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