伽羅香

 何時もの如く、宵闇に紛れて教皇宮にあるシオンの私室にやってきたアフロディーテは部屋の前で少し違和感を覚えた。気のせい…ではないらしい。間違いなくシオンの私室から何か香の匂いが漂ってくる。鼻が利きすぎるのもあるからだろうか、なんとなく……この香りに順応出来ない。とりあえずは中に入らねば…と、何回かノックをし主の了解を得て、部屋へと入り込んだ。
 ベッドの近くに備えられたサイドテーブルには積み重ねられた本と、余り見たことがない香炉が置かれている。年季を感じさせる黒。そこからゆっくりと白い煙が揺れてやがて視認出来なくなる。
「これが気になるか」
 部屋に入ってからずっと香炉を見詰めているアフロディーテにシオンは優しく声を掛ける。シオン曰く、今日部屋を整理していた時に出てきたという。埃を落とし布で綺麗に磨いて手入れをした後、今夜こうして香を焚いているのだと、シオンは目を細めた。
「慣れぬか?」
「…少し」
 香炉の存在ではなく、この香りにだ。
頻りに腕を擦ったりそわそわとなんだか落ち着かない様子のアフロディーテに、シオンは抱き寄せて耳元で声音柔らかく囁く。
「どうしたアフロディーテ」
「…なんでもありませぬ」
「嘘はいけないな」
 香が染み付いたシオンの手がアフロディーテの頬を撫でる。顎を上げさせ顔を近付けるが、アフロディーテは口を引き結び、固く目を瞑って口付けを拒否の姿勢を見せる。なので、口付けをやる変わりに指を口の中に捩じ込んだ。
「!ッん、んぅ…」
 指を軽く出し入れをされて、徐々に咥内に甘さが広がっていく。舌を指の腹で撫でられただけで背中がぞくぞくとあわ立つ。
「ん、…ぅ…ぇ…」
「ふふ…良い顔をしている」
 少し弄っただけなのにアフロディーテの小さな口の中はもうとろとろで、指に絡み付いた唾液は糸が引く程になっていた。見せつける様に舐め取り、喘ぐ様な呼吸を繰り返しながら顔を真っ赤にするアフロディーテは小さい声で問う。
「…あの香は…一体、」
「正真正銘只の香だ」
「…なんで、こんな…」
「"身体が疼いて仕方ない"…か?」
 こな魚が口付けを許さなかった理由を考えれば答えは一つ、毒か薬かそのどちらかを服用していると云うこと。今まで自分と逢瀬する時にその様な事は決してして来なかったアフロディーテがそれをしてきた理由とはなんなのだろうか。魚座に勅命は下していない。街への外出届けもここ数日見ていない。ならば……。
「…毒薔薇の配列を変えたか」
「……………」
 アフロディーテから答えは無かったが、急に押し黙ったということは肯定ととって良いだろう。女神の聖闘士として何時如何なる時も力を抜かない魚座の黄金聖闘士。それ事態は聖闘士として当然のこと。しかしアフロディーテは真面目故に時にやり過ぎてしまう傾向がある。
「困った子よな」
「…申し訳ありません」
「今宵は許さぬ」
 ギクリ、と身を堅くするアフロディーテを抱き寄せ耳元で熱っぽく囁く。
「…せっかくの逢瀬にお前に触れられないというのはこの私とて堪えられぬ」
 そう言い切るとシオンはアフロディーテの寝間着を剥きにかかる。
「あっ、ぁ…っ、おゆるしを…!」
「許さぬ、と言った筈だが?」
「ひぅ…!」
  寝間着を開いて現れた乳首を摘ままれながら引っ張られる。発情した身体にはこの刺激が強過ぎるらしい。だから今宵は優しいく愛でてやろう。
「あ、はぁっ…しおんさまぁ…!」
「良い子だ。そのまま大人しくしておれ」
 すがり付いてくる魚座の額に口付けを施しながら、シオンの両の手のひらはアフロディーテの身体を苛め始めた。


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