ベリータルト

「精が出るね。」
 風と共に香って来たのは薔薇の香り。流れる汗をそのままに、アイオリアが声のした方向へ振り向くと其処にはアフロディーテがいた。
 その辺に置いてあったタオルを手に汗を拭う。鍛練で上がった息も整えて、アフロディーテの側までゆっくりと歩み寄る。近くなれば成る程、甘い薔薇の香気にアイオリアはくらくらして仕舞う。香気に酔いながら、ぼんやりとアフロディーテを見つめていると、小首を傾げるアフロディーテ。
「私の顔に何かついてたかい?」
「あっ…いや、何でもない…。」
 若干挙動不振なアイオリアに、目の前のアフロディーテは柔らかく微笑むばかりだ。おもむろに伸びてきたアフロディーテの指が、汗で張り付いたアイオリアの前髪を払う。
「っ!?」
 思わず後ずさってしまった。なんてことない、ただ前髪に触れられただけだ。なのに自分は何故こんなにも平静を保て無いのか。
 アフロディーテは少し驚いた顔をしていたが、特に怒った節は無い。いやこの人はそんなことで怒る人ではないか…。アイオリアは誤魔化す様に話題を変える。
「な、何か用事か?」
「うん。アフタヌーンティー一緒にどうかと思ってね。」
 紅茶葉が入った瓶と手作りだろうかベリータルトが六つ。多くないかとアフロディーテに問うと、鍛練でお腹空いてると思って沢山作って来た…そう言って笑った。
 この笑顔は反則だ……アイオリアは止められない衝動に身を委ね、逞しいその両腕でアフロディーテを抱き締めた。肩口に顔を埋めて、思いっきり息を吸い込む。薔薇とアフロディーテ自身の香りを肺に入るだけ入れる。吐き出すのが勿体無いと考えている。これはもう末期だ。どうしたって自分は、この人に惚れ込み過ぎている。
「…アイオリア?」
「もう少し、こうさせてくれ…。」
 自身の匂いを嗅がれて気恥ずかしそうにするアフロディーテ。アイオリアはまだ肩口に顔を埋めている。段々とこの状態のアイオリアが可愛くなってきた。やがてアフロディーテは彼の背中に腕を回し、幼子をあやすようにぽんぽんと背中を軽く叩く。
「君のこういうところ可愛いと思うよ。」
「…子ども扱いしないでくれ。」
 ぎゅっとアイオリアの拘束が強くなる。子どももじゃなくて、自分は貴方の恋人だ。そうだねと大人の笑みを浮かべるアフロディーテ。二歳しか違わないのに。なのに二歳の差は大きいと痛感する。
 アイオリアは肩口から顔を離すとアフロディーテの艶やかな唇を奪った。



獅子は惚れたら直向きな気がします。しかしこれではヘタレっ気が拭えない(笑)←
でも決める時はビシッと決める獅子でいて欲しい。

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