あめいろ

 微睡みの中にに半分以上意識を浸しながらも、少し遠くの方で薪が焼ける音が聞こえてくる。炎が揺らいで空気の流れが変わって、睡眠を促す包まれる様な暖気に頬を撫でられる。その後に感じる温もりは、誰のものだろう。……いや、そんなの考えなくても答えは一つだ。だって今いる場所はパンドラ女史の屋敷で、そして此処は彼に宛がわれた一室なのだから。
ゆるりと瞼を押し上げ、手のひらの動きを追う。その先には冬だと言うのに上半身は裸のままのガルーダ。
「…悪ぃ起こしたか?」
「ううん、大丈夫……」
 再び触れ様と伸びてきた手のひらにアフロディーテは自ら擦り寄る。
「珍しいな、あんたの方から寄ってくるなんて」
「……駄目か?」
「いーや寧ろ大歓迎」
 猫の様に甘えてくるアフロディーテにアイアコスは目を細めた。普段は誇り高く気高い魚座も褥の中ではこんなにも可愛いらしくなるのを知っているのは自分だけ。付き合いが長いという蟹座も山羊座も、聖域の奴らは誰も知らない。俺だけが知ってる俺だけの愛らしい魚座の麗人。
「……酔ってるのかい?」
「飲んでない。でもアフロディーテ、あんたにならずっと酔いっぱなし」
「……やっぱり酔ってるな」
 魔の薔薇の香気が部屋の中に充満しているらしい。何時間か前には、今日まで逢えなかった時間を取り戻す様に、互いに相手を激しく求め貪っていた。その残り香にアイアコスは酔ってしまっているらしい。頬から耳に指を這わしやわやわと耳朶を揉まれて撫でられる。くすぐったい半面、弱いところに触れられているせいでぞくぞくと背中を這うせいで口から溢れたのは甘い吐息。
「…えろ」
 神速を誇るガルーダは難なく魚座を組み敷くと頬や唇、泣き黒子にちゅ…ちゅ…と口付けていく。流されまいとアイアコスのキス攻撃を彼の口元に手のひらをあてて防ぐ。少しだけ見開かれるオーキッドの瞳。
「アイアコスやだ……」
「もっかいだけしたい……だめ?」
 ……捨てられた犬みたいな目をしないで欲しい。
「なぁアフロディーテ」
 ぺろり、と手のひらを舐められる。今度はアフロディーテが驚く番だった。慌てて引っ込め様としたが、まんまとアイアコスに捕まってベッドに縫い付けられる。顔が近付く。押し付けられた唇。これを受け入れてはならない。……いけない、のに。
「…ふ、ぁ、んん……」
 どうして君とのキスはこんなにも気持ち良いのだろう。ずっとこのままで二人で一緒に蕩けて無くなってしまいたくなる。
「あいあこす…」
「…ん」
 嗚呼、駄目だ。また君に溺れてしまう。



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