チェリーピンク

 春になると庭園の薔薇は勿論、聖域の草花達が我先にと蕾を膨らませそして開花していく。この時期は植物達の脈動を探すと、とても賑やかである。だが嫌いでは無かった。
「シエスタにしてはちょっと寝過ぎじゃねぇの?」
 聞き慣れた幼馴染みの声。花達から小宇宙を切り離し、閉じていた瞼を持ち上げる。が、一瞬太陽の光に目が眩んで、開けておくのが難しくなった。刹那、唇に何かが触れる感触。そして微かに香るタバコの匂い。
「…いい加減起きろよ。眠り姫は王子様のキスで起きるんだろう?」
 今度こそ目を開ければ、そこには良く良く見知った蟹座の顔。人を食った様にニヤリと笑うデスマスクがいた。
「王子様にしては君の顔は悪どすぎる。」
「誰が王子様っつたよ?」
「では蟹か?」
 そこは狼だろう?と、また唇を食らわれる。眠り姫を起こす為の、可愛らしいものではなくて。入り込んだ舌に、己の舌を絡め取られて吸い上げられる。他にも歯列をなぞったり、舌の裏側を擽られたり、咥内を堪能するデスマスクとは対照的に、アフロディーテは彼にされるがまま咥内を貪られる。
「…ッしつこい!」
「んだよ、大人しく食われろよ。お姫様♪」
「誰が姫だ、こら! 離せっデスマスク! どさくさに紛れてどこを触っている!?」
 長時間の口付けでろくに力も入らないアフロディーテは簡単にデスマスクに抱えられ、双魚宮の寝室…ベッドに放られる。口付けを交わしながら、シャツの前を開かれ肌を撫でられる。
「デスマスク、やだってば…。」
「…本当に嫌か?」
 デスマスクの言葉にアフロディーテはたじろぐ。この魚はこういった…求められているという言い方に弱い。狡いやり方かも知れないが、今は兎に角アフロディーテが欲しくて堪らない。春という時期に当てられたのだろうか。その辺でにゃーにゃー煩い猫のことを言えないな…と、自嘲していると押し倒したアフロディーテの腕が伸びてきて首に巻き付いていく。
「…なんだか私も、君の事欲しくなって来た…。」
「そんじゃあ…遠慮なく行くぜ?」
「…うん。来て…。」
 春の柔らかな日差しが差し込む午後の出来事だった。

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お互いに甘い蟹魚。

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