約束事

 体温計が示す温度は38度。それを見たアフロディーテはため息を一つ溢した。道理でシュラの顔が赤い筈だ。これは完全に発熱している。なのに熱を出した本人である山羊座は自分のことなのに何処か他人事の様だ。私が風邪なんか引いたあかつきには、今すぐ休めだなんだと、あっという間…それこそ光速の無駄遣いでベッドに安静に寝かされるというのに……。
更にこの山羊ときたら、発熱の事実を認めないばかりか、起きて書類仕事をするなんて言い出すものだから、少々手荒だが薔薇の香気で動きを封じてやった。ベッドに運んで寝かせたものの、大丈夫だなんだとちっとも眠ろうとしない。流石に強制的に眠らせるのはどうかと思って、どうしようかと悩んで……今に至る。
「…明日。」
「ん?」
「明日は何処行きたい?」
 明日は二人共に非番で、更にいうならばアフロディーテの誕生日である。折角だからアテネ市街でゆっくり買い物でもしようか…と話をしていたと思い出す。
「気持ちは嬉しいが、君の風邪が直らないことにはどうにもならないな。」
「風邪ではない。そもそも熱もない。」
「何故そこまで頑ななのだ。いいか? 今の君は風邪を引いた立派な病人だ。そもそもの話だが寒い中で半裸で鍛練して、そのままアルコール飲んで酒瓶抱き枕に床で寝る奴があるか!?」
「……すまん。」
 眉尻を下げながらシュラに謝られる。素直に謝罪するくらいなら、最初から風邪だと認めて眠ってくれれば良いものを……。
「風邪は引き始めが肝要だ。今は兎に角ゆっくり休みたまえ。」
 ギューときつめに絞ったタオルを額に乗せて、布団を掛け直す。途中で目が合い何か言いたげに開いたシュラの唇に指を押し付ける。どんな言葉を言うのか…大体の察しはつく。
「謝るくらいならば治せ。」
「む…。」
「おやすみ、シュラ。」
 買い物は出来なくても良い。元気になった大好きな君とただ一緒にいられるだけで、それだけて良いから。
 早く良くなります様に。小さな頃にしたのと同じく、おまじないのキスを贈った。

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2017年アフロたん!

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