細工流々

「なぁムウ? お前らって本当に付き合ってんのか?」
「何ですか、藪から棒に…。」
 同い年の蠍の言葉に羊は特に反応を示さなかった。向こう正面にいるムウと付き合っているアフロディーテもまた同じ。黙々と書類仕事をこなし、また別の書類に判子を押している。
「よさないかミロ。」
「だってさー。つかシュラは気にならないのか? ムウとアフロディーテがどんな風に付き合ってんのかって。」
「別に。分別のつく年齢の者に一々口出しする必要もなかろう。」
 黄金の皆は二人が付き合っていることを知っている。ただ付き合ってからが何も見えないし、聞こえてこないのだ。どちらかの守護宮で一緒に過ごしたりはしている様だが、雰囲気らしい雰囲気も無いらしい。それでも一緒に茶を飲んだり、食事をしたりはしている。極々ありふれた日常の一コマを送る二人からは、恋仲の様子は見えてこなかった。そう、見掛けた者は口を揃えて言っていた。


「そんなに私達は付き合っている様に見えませんかね…。」
「ミロはミロなりに私達のこと心配してくれてるんだろうさ。」
 それぞれが思う恋仲と過ごすベクトルは違うだろうに…と、ムウは眉墨を寄せる。
 片や始まりの白羊宮の主は聖衣の修復師。片や十二宮最後を護る双魚宮の主は防衛の要である魔宮薔薇の管理をしなければならない。それの他に今日みたく執務だったり、時には任務に出なくてはならず、一緒に過ごすということがどうしても難しくなるのだ。
「なんなら明日は皆の前でいちゃついてみようか?」
「え?」
「冗談だよ、そんな驚いた顔しなくても…。」
「あ、いえそうではなく。私は一向に構いませんよ。貴方が誰のものであるかを示すには丁度良いかと。」
「ムウ…。」
 ベッドが軋む音が静寂を破る。
「フフ…また、アフロディーテが欲しくなってきました。」
「ついさっきまであんなにしたのに?」
 互いに触れるだけの口付けをしていると、不意にムウが起き上がる。何事かとベッドに寝ていたアフロディーテも起きようとした瞬間、眼前には赤とピンクと黄色の花。
「誕生日、おめでとうございます。」
「…あ。」
 時計の針はたった今零時を過ぎたと報せている。
「薔薇…じゃないね? …ん、これもしかして入浴剤?」
「えぇ。先日日本へ行った時に見つけたんです。」
 薔薇の形をしたそれは花の部分が入浴剤になっているという洒落た品物だった。
「やはり貴方には花が似合うので何か花を…と思ったんですがね。生花ではアフロディーテの薔薇が一番ですし、こういうのも面白いかと思いまして。」
 修復師の観点から見ても、中々良く出来ている物故に惹かれたのだとムウは続けた。
 これにはアフロディーテも気に入ってくれたらしい。綺麗にラッピングされた三つの薔薇型の入浴剤を一つずつくるり、くるりと回しながら繁々と眺めている。その表情は柔らかく微笑んでいて、釣られてムウも目を細めた。
「有難うムウ。後で一つ使ってみようか。」
「では、良いのですね?」
「せっかちは嫌われ…ぁ…んっ…。」
 答えを待たず羊は魚の艶やかな唇に食らい付く様に口付けた。

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2017年アフロたん!

薔薇の型の入浴剤は先月バレンタインの贈り物に〜…というコーナーで実際にありました。残念ながら買ってないんで、どんなものかは分からないですが…(^-^;

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