白日猫

「…猫?」
 見間違えではない。自分の目の前には確かに猫がいる。猫がいること自体はそんなに珍しいことじゃない。ただいる場所が問題であった。
「ミロ来てたのかい。」
「あ、アフロディーテ。猫がいるんだが…。」
「うん? 猫?」
 ミロが指し示す方向、真紅が映える薔薇の庭園に白い猫が一匹のそのそと歩き、時折薔薇に興味があるのかジッと見詰めている。それに飽きた猫は地面に身体を擦りつけ、ギリシャの大陽をその身に浴びながら毛繕いを始めた。
「あの辺りは魔宮薔薇は咲いてないから大丈夫だよ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「猫がいる理由かい?」
 聖域と俗世の間には結界が張ってある。人は愚か、動物が容易に入り込むことは出来ない筈だ。
「正直な話、私も良く分からなくてね。気付いたらいたんだ。」
 花を荒らすとかその他悪戯をされないので基本猫の好きな様にさせているらしい。
「にゃー。」
「おや、噂をすれば…どうかしたかい?」
 さっきまで毛繕いに勤しんでいた猫は、いつの間にかアフロディーテの足下に擦りよってきている。抱き上げて喉元を撫でてやればごろごろと鳴いた。
「懐いてんだな。」
「たまにご飯をやってたからね。ねー。」
「にゃあ。」
 最近は一緒にいられないことが多い自分と比べて、この猫は自分が知らない時にアフロディーテにこうやって構って貰っていたのだろう。
 猫に嫉妬するなんてまるで子どもの様だ。みっともない部分を見られたくなくて、このまま帰ろうか…と思った時だった。ふんわりと香る薔薇の香り。アフロディーテに抱き締められているのだと気付く。
「…猫は?」
「もう行ったよ。だから次は君の番だ。」
「俺は猫じゃない。」
「あぁ知っているよ、私の可愛い蠍座殿?」
「…可愛いは余計だ。」
 今日はあの猫より一緒にいてやる。取り敢えず、猫に奪われなかったアフロディーテの唇を奪ってやった。

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今年は間に合いました、ぬこの日の話。

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