ロイヤルカルテット もしかしたら自分が居たかもしれない場所。別に此処にいたかったとか、己の境遇と運命に悲観している訳じゃない。ただ自分が海闘士ではなく、聖闘士だったならばどうしたか…と考えた時もあるという話。意味が有りそうで、これに意味なんてない。今は海皇の使いとしての任を果たすだけだ。アイザックは再び石階段を上り始める。 途中で海竜…いや今は聖域にいるのだから双子座と呼んだほうが良いだろう。手短だが海界の近況報告を済ませる。近々そちらに行くと言伝てと何枚か書類を預かった。 「カノン、居るかい?」 書類を整理していると、不意に掛かる誰かの声音。水色の髪。海の様な蒼い目をした美しい人。 「ようアフロディーテ。」 「客人がいるなら出直して来るが…。」 「いや用事ならもう終わった。」 アフロディーテと呼ばれた人は、そうかと此方を向いて微笑まれて、アイザックは会釈を返す。 「紹介する。海魔人のアイザックだ。」 「始めまして。」 「ほう君が…。私は魚座のアフロディーテだ、宜しく。」 何か自分のことを聞いているのだろうか。しかしそれを詮索するのはクールではないと、アイザックはもう一度会釈を返す。お互いの自己紹介が済むと、カノンはアフロディーテから何か紙袋を渡されて話し込んでいる様だった。 「ではカノン。自分はこれで。」 「ああ待ちたまえ海魔人。君はこれから上に行くのだろう?」 「はい。」 「君さえ良ければ共に行っても構わないかな?」 …ということがあり、自分は今魚座と共に十二宮を歩いている。何故一緒行こうという誘いを受けたか。答えは簡単、断る理由がなかったからだ。 「君のことはカミュやカノンから聞いているよ。」 「そうでしたか。」 「ただ生憎カミュは任務に出ていてね。」 「仕方有りません。それが務めならば。」 師やカノンがどういう風に自分のことを話していたか分からないが、魚座の様子を見るに悪い印象は持たれてはいないらしい。寧ろどこか好意的に見えるのは気のせいだろうか。 「どうかしたかい?」 「いえ。何故貴方は自分と共に行こうと言ったのか分からなくて。」 「深い意味は無いがそうだな…。敢えて言うなら似ているから、かな。」 「…我が師にですか。」 「勿論良い意味でだ。そこは勘違いしないで欲しい。」 聞けば、まだ黄金聖衣を賜る前からカミュの面倒を見てきた魚座からすると、良く似ているのだという。どのあたりが、とは分からないらしいが、不思議と世話を焼きたくなるという。 「そういえば。」 「なんだい?」 「師が、隣人に良くして貰っていた…と言っていた記憶があります。」 その話が出る時必ず師の手には薔薇の花束があった。雪とは違い鮮やかな赤い色。黄色に紫。他にもシベリアには無い色が時折、活けられていたとアイザックは続ける。 「あれは、貴方が?」 「何故そう思うのかな。」 「貴方からは薔薇の香りがする。」 カミュが貰ってきたものと同じ香りがするものがあった。魚座から香るこの匂いは、香水やコロンの類いのものではない。天然にも親く香るのは、その身全てを何かに浸しているからだ。 「…成る程。聞いていた以上に君は賢い子の様だね。」 無人の宝瓶宮を抜けて暫くすると、魚座と同じ薔薇の香り。近付くに連れその匂いは甘く濃くなっていく。そして目の前に拡がる薔薇の庭園は広大で、何より…。 「…美しい。」 「そう言って貰えて私も嬉しいよ。…あぁほら、薔薇達も喜んでいる。」 そう微笑みながら魚座は傍らに咲く薔薇の花弁を撫でる。 「折角だ、君もアフタヌーンに招待しよう。」 「…え?」 「だがその前に先にお使いを済ませないとな。ついてきたまえ、迷っては大変だ。」 そこまでしてくれなくても良いと思った。魚座に比べれば自分はまだ子どもだが、分別が出来ない歳ではない。しかし、アフタヌーンを断る理由も、道案内を断る理由も自分には無かった。 つくづく不思議な人だとアイザックは魚座の揺れる水色の髪を見ながら思った。 ―――――――――――― 打ち終わらず遅刻…orz ざっくん誕生日おめでとう〜。 2/17の誕生酒はロイヤルカルテット。特徴は心安らぐ場所を夢見る文学少女です。 ざっくんのことはカミュさんから聞いていたんじゃないかと。そしてカミュが言うこの子は実際どんな子だろう…みたいなそんな妄想。 |