ビエールイ 先日の紫龍の誕生日と同じく今日の天秤宮では童虎の誕生日を祝うべく多くの小宇宙が集まっていた。誰かが前回みたいなのばか騒ぎにならないか…と危惧していたが、今回はこの間の様な騒ぎにはならなかった。 誰かしら非番なのだが明日は黄金聖闘士皆が皆、其々任務があった。広域偵察任務や教皇宮に詰めて執務を担当する者、聖闘士候補生や兵士らの鍛練する者、重要なところで言えばアテナが日本に帰国する為の護衛任務を控えている者等……明日のことを考えるとこの間の様なばか騒ぎは出来なかった。 それ以前にも色々と立て込んでいたのだが、どうにかして童虎の誕生日は祝いたいと、忙しい合間を縫って天秤宮に集まったのだ。 そして宴もたけなわで、名残惜しそうに自分の守護宮へと戻っていく可愛い子ども達を童虎は感謝の言葉と共に見送る。 すると上段の守護宮に帰るミロ達とすれ違いに、天秤宮にやってきたのはアフロディーテだった。執務で参上が遅れてしまったと謝罪するアフロディーテに、童虎は気にするなと水色の頭をわしゃわしゃと撫でた。 「改めて…お誕生日おめでとうございます、老師。」 「こんな爺の為に、有難いのう。」 小振りな白い薔薇のブーケを受け取る童虎は、照れ臭そうに、しかし嬉しそうな表情をしていた。そんな童虎を見てアフロディーテも嬉しそうに微笑む。 何を贈ろうか結構迷ったのだが、一周回って結局は庭園の薔薇を贈ろうということに落ち着いた。先程渡した白い薔薇の花言葉には"深い尊敬"というものがある。一応それにかけている。 「上がって行かんか?」 皆帰って行ってしまって寂しいらしい。アフロディーテも明日執務の仕事が控えているが、このまま直ぐ帰るのはナンセンスだと、天秤宮にお邪魔することにした。 実はシオンはまだ教皇宮に詰めている。親友の誕生日を祝ってやれないのが口惜しいと、同じく教皇宮にて残業をしていたアフロディーテに珍しく愚痴っていた。教皇という立場上仕方無いとは言え、シオンの気持ちは十分理解出来る。自分が代わりにシオンの分までお祝い出来たら…等とはおこがましいかも知れないが、今日だけは許してくれると信じたい。 「お前さんも可愛いことを言うもんじゃの。」 「老師まで言いますか。」 わしゃわしゃアフロディーテを撫でてくる童虎は少し酔っているらしい。ほろ酔いに見えるのは彼がアルコールに強いからだ。空いているアルコールの瓶の数を見ると相当な数がある。無論この全てを童虎が空けた訳ではないが、相当飲んだことは明白である。 乱れた髪の毛をアフロディーテが直していると、童虎は薄青色の花瓶に活けた白い薔薇を眺めながら呟く。 「白い薔薇の花言葉のう……確か"私は貴方に相応しい"じゃったか?」 ごほっとアフロディーテが飲み物を噎せる。確かに童虎が言ったそれも白薔薇の花言葉の一つである。間違いではない。間違いではないが、アフロディーテが送った意味とはずれてしまっている。 「…げほっ…老師、私はその意味で送った訳では…。」 「アフロディーテ。」 「は、い…?」 ほろ酔いの爺がすべき表情ではない。アフロディーテを押し倒し、彼を見詰める眼差しは何時もの大らかなものでは無く、至極真剣なものだ。例えるなら戦いに赴く戦士の目。 「ろ、老師…あの近いんで、す、が…?」 「童虎で良い。」 「しかし…。」 「呼ばぬと離さんぞ。」 声色まで低くなってきている。どうにかしてこの状況を打破しなければ…。宴の最中なら爺が酔っ払っていると冗談を交えながら回避出来るものの、皆自分の守護宮に戻ってしまっている。力はどう頑張っても童虎のほうが強い。最悪は赤薔薇の香気に酔って貰うしかないが、今日が童虎の誕生日だということと年長者に対してそのやり方と扱いは如何なものか。デスマスクとシュラになら問答無用であるが…。 「ふあっ!?」 考えが纏まらず思案するアフロディーテは思わず素っ頓狂な声を上げた。 童虎の顔がずいっと近付いたかと思うと、鼻筋に口付けて来たのだ。唇で無くて良かったと思う。思うのだがやはりこのまま流されてはいけない。 「ど、童虎!」 起死回生に童虎の名前を呼ぶ。いやこの場合は叫ぶが正しいか。 「…漸く呼んでくれたなアフロディーテよ。」 思わず瞑ってしまった目を見開くと、眼前には満面の笑みを湛えた童虎がいた。ここで漸くからかわれたのだとアフロディーテは気付くのだった。 「本当に可愛いのう。」 顔を真っ赤にして反論しようとするアフロディーテに、今度こそ童虎は艶やかな唇に口付けをするのであった。 振り回す天秤。珍しく取り乱す魚。全ては酔っているからだけではないようです。 今回は間に合った! 童虎さんお誕生日おめでとうございますー。年長者だけど時折年長者らしからぬ行動をする貴方が好きです。黄金魂のあれとか(笑)← |