カカオフィズ

 双魚宮の入り口に山積みになった大量のチョコを確認。恐らくは兵や官吏達聖域に仕える者達が贈ったのだろう。自分の巨蟹宮もそうだったから。入り口でこれなら教皇宮へと続く方にも、山積みチョコがありそうだな…とデスマスクは自分の宮の光景を思い出しながら双魚宮の居住スペースに入った。
しかしそこにアフロディーテの姿は無い。今日は非番だと聞いていたのだが……誰かと仕事を取り替えたのだろうか。庭園にも魚座の小宇宙はなかった。
昔の癖で仕事関連のことは最低限のものを残して殆ど形に残さない様にしてきた。故にアフロディーテが仕事でいないのか、別の理由でたまたまいないのかが分からない。
「それに小宇宙通信するほどのことじゃねぇしな。」
 いないのなら戻ってくるまで待てば良い。こちらもどうせ非番の暇人だ。適当にコーヒーをいれて麗人の帰りを待つとしよう。折角アフロディーテが食べたいと言ってたオペラを作ってきたのだ。どうせなら喜ぶ顔がみたいし、一緒に食って余りの美味さに驚く表情とか、感想なりを聞いてみたい。
それまでは冷蔵庫にしまっておくかと、扉を開ける。
「うお、なんじゃこりゃ。」
 聞くまでもなくアフロディーテが貰ったチョコがずらりと並んでいた。最近は聖域でも義理とかや本命だとか以外にも、友チョコとかなんたらチョコを渡すのが流行っている。言うまでもなくこれを広めたのは愛を説く我等が女神様である。彼女が広めた日本流のバレンタインは多国籍のバレンタイン文化を取り込み色々とカオスなイベントとなっている。しかもそれを誰も気にしなくなったというのが一番恐ろしい話である。
 そんなこんなで冷蔵庫の中身を拝見しよう。恐らくというかまず間違いなく一番上の上等な箱は我等が女神様からのチョコだろう。自分も今朝早くに貰ったので覚えていた。
 次に彫刻の様に切り出された薔薇の形が見事なピンク色のチョコはどう考えたってシュラが作ったものだろう。あいつは女神から授かった聖剣を誇りに思っているが、それをこんな風に使うとなるとあの山羊は聖剣をなんだと思っているんだろうか。
まあ大方? "お前に言われて使うのとは訳が違う。"とかなんとか言うんだろうよ。俺に言われて使おうが使うまいが結局意味はおんなじイコールだ馬鹿山羊。


「ぶえッくしっ!!」
「うわあっ! ビックリしたぁ…。」
「済まんミロ。」
「風邪でも引いたか? ティッシュ良かったら使ってくれ。」
「あぁ有難うアルデバラン。…くしゃみした理由は多分あいつらが噂してるんだと思う。」
「離れていても仲が良いんだな。」
「なんか違うと思うんだが…。」
「え…あぁ、うん。まあ、な…。」
「あ、満更でもないんだ。」


 教皇宮にて執務担当組が以上の様な会話をしているとは露知らず。一応チョコを壊さない様に奥の方へとずらしてスペースを作る。他にもバラエティチョコだったり他の菓子だったりととても賑やかである。
その中になんとかオペラを詰め、リビングに戻るとアフロディーテ…ではなく青銅アンドロメダが居住スペースの入り口にいた。
「こんにちは、アフロディーテいますか?」
「いねーよ。つか聞かなくても小宇宙で分かるだろ?」
 そういうと瞬は少し困った様な顔をした。
「アフロディーテたまに小宇宙消してたりするから…。」
「あいつにだって"そういう時"もあるさ。」
 黄金聖闘士である前に魚座もまた人である。デスマスクはそれ以上言わなかったが、蟹座の言葉の意味を察した瞬は頷いた。
「これ、アフロディーテが戻ってきたら渡して下さい。」
「お前が作ったのか?」
「自慢じゃないですけど料理はやるほうなんで。」
「胃袋から掴もうってか? 残念だったな、アフロディーテの胃袋も心もあいつの全部は俺様がが掴んじまってるっつの。」
「でもいつか必ず僕に振り向かせてみせますよ。」
 これだから聡いガキは嫌いだ。紙袋を引ったくる様に奪うとシッシとアンドロメダを遠ざける。あんな可愛い顔して考えていることは肉食以外の何物でもない。奪われる気も更々無いが、今後はこっちも色々と考えなければならないか…なんて思考を巡らせていると不意に鼻孔を掠める薔薇の香り。薔薇くさい宮の中にいてもこれだけはアフロディーテの香りだと分かる。そしてデスマスクの思った通り、両腕に大量のチョコを抱えたアフロディーテが双魚宮に戻ってきた。
「君が出迎えとは珍しい。」
「たまには良いだろ? つかお前何処行ってたんだよ。」
「アイオリアと一緒にロドリオ村まで。」
「あぁ? それってどういう…。」
「勘違いしないでくれたまえ。単なる視察だよ。」
 リビングに置かれたテーブルに貰ったチョコの山を築きつつ麗人はデスマスクへと向き直る。と、むぎゅうと抱き締められた。薔薇の香りが近すぎてくらくらするが、デスマスクもしっかりとアフロディーテを抱き締め返す。
「ただいまデスマスク。」
「おう…お帰り。あ、オペラ作ってあるからよ。」
「うん。でももう少しこのままで…。」
 その夜、二人はチョコよりも甘い時間を過ごしたのだった。

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カカオフィズのカクテル言葉は「恋する胸の痛み」

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