チョコミント

 カミュは読んでいた本を閉じた。来客が来たからだ。珍しく双魚宮から降りて来たアフロディーテをカミュは宝瓶宮へ快く迎え入れた。
 別件任務で長期間聖域を開けていたカミュはアフロディーテとは久し振りに顔を合わせることになる。そしてアフロディーテは魚座の黄金聖衣を纏っていた。最近大きな事象が無かったからか、思わず何かあったのかと問い掛ける。
「いや、今日は執務でね。昔の書類整理をしてたら祭事の日付が分からないのが出てきたんだ。教皇宮の図書室には資料が無かったから、多分宝瓶宮の蔵書庫に閉まってあるんじゃないかと思ってね。」
 そういうことか、とカミュはアフロディーテを蔵書庫へと案内する。
 自分もアフロディーテもアテナの聖闘士だ。聖闘士ならば闘いは避けられない。しかし聖衣を纏っているからといって全てが闘いに為る訳ではない。分かっている。今はただアフロディーテが闘いに赴かなくて良かったと胸を撫で下ろす。冷静で頭が良い人なのだが、まず自分が…と先陣を切っていく人でもある。だから余計にカミュはアフロディーテが気になり、柄にもなく心配する。
「大体のどのくらいの時期なのだ?」
「内容から言って…恐らくは年末の祭事だと思う。」
「ならばこっちだ。」
 天井高く聳える本棚。静かに収まる書物達は埃ひとつ被ってはいない。カミュの豆な性格が出ている。普通これだけの膨大な量があれば神官達に手伝わせるだろうが、カミュはそれを一人で行っている。言い換えれば毒薔薇である魔宮薔薇の管理を一人でするアフロディーテと同じである。しかし魔宮薔薇の管理は代々魚座の黄金聖闘士しか出来ないのでこれでは語弊があるか。
 勝手が分からないアフロディーテは静かにカミュの後ろを着いていく。
「年末の祭事関連はここからあそこまでだ。」
「有難う。後はこちらで調べるよ。」
 ふわっと微笑む麗人。そうは言うが資料となる本は一人で探すには量が多すぎる。これは骨が折れるだろうと手伝うと言ってカミュはアフロディーテが持ってきた書類に目を通す。
「……これは近年に行われたものではないな。」
「良いよ、カミュは今日非番なんだ。部屋に戻ってゆっくりお休み。」
 書類を取られてしまった。
これは私の仕事だ、地道に探すからとアフロディーテは一冊一冊手に取りパラパラと紙を捲る。
「年代的に見るとこっちだと思われるが…。」
「カーミュ。」
 アフロディーテの制止を振り切りカミュは本棚に目を走らせる。
「何故、貴方はそうも突っ跳ねるのだ。」
 カミュの言葉にアフロディーテは一瞬怯んだ様だった。
 アフロディーテは先日シュラに釘を刺されたことを思い出していた。もっと自分のことに気を回せと。更に紫龍にも、自分を他人をもっと頼って欲しいと言われたことを。
「…アフロディーテ?」
 首を傾げるカミュ。気に障るような事を言ってしまったか?カミュが思案する中、アフロディーテは静かなトーンで話出した。
「……カミュ。やっぱり資料探すの手伝って貰っても良いかい。」
 甘えにならないだろうか。今までそうやって一人でやって来た。一人でやるのが自分の中では当たり前だったから。しかしアフロディーテのこの心配は杞憂に終わる。
「では私がめぼしい本を探して渡していくから、アフロディーテは中をチェックして欲しい。」
 チェックし終わった本は取り敢えず適当な所に置いて置けば良いから。カミュはそう言うと珍しく顔を綻ばせながら、高い所にある本を取る為に梯子を取りに行く。
 何時でも自分の周りには手を差し伸べてくれる人がいる。
(…本当、だった。)
 周りを見ているつもりで、目を瞑っていたのは自分だった
「アフロディーテ。」
「うん?」
「有難う。」
 私を頼ってくれて。梯子を昇っていくカミュにアフロディーテは小さく呟く。
「…いや、お礼を言うのは私の方だ。」
 五冊ぐらいの本を抱えてカミュは身軽にストンと飛び降りる。
「礼など要らない。助け合うことは当たり前のことだ。」
「聞こえていたのかい…。」
「蔵書庫は静かだからな。」
 耳が良く聡い後輩に一杯食わされた先輩は、気恥ずかしそうに顔を反らしていた。



個人主義な魚が漸く周りに気付いた話。水瓶魚はただの年下×年上にならなくてなんか好き←

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