ワインレッド

 花瓶に生けられた薔薇を何とはなしに触れてみる。ビロードに似た滑らかな肌触りが心地良い。無心で何度も指を滑らせていると、キッチンから戻ってきたアフロディーテが口を開く。
「デスマスク、今日は来ないってさ。」
 年末特有の膨大な書類仕事に追われているらしい。小宇宙通信を切るとアフロディーテはグラスを一つ戸棚に戻す。
「そうか。残念だな。」
 シュラは一つ嘘をついた。本当はデスマスクが来ないことに心の何処かで安堵をしていた。
 腐れ縁三人で一緒にいること事態は嫌ではない。それはシュラだけではなく、アフロディーテもデスマスクも同じだろう。教皇派として同じ時間を過ごしてきた故に、三人でいることは今でも心地良いものだ。
 しかし今自分とアフロディーテは付き合っている。三人でいることもそうだが、どちらかと言えば今は二人きりでこうして過ごしたいのだ。
「デスマスクいないけど、これ開けてしまおうか。…シュラどうした?」
「アフロディーテ、ちょっとこっちに来てくれないか。」
 こてん、と首を傾げながらもアフロディーテはシュラが座るソファへと近付いてくる。シュラは隣へ座る様に、空いているソファをぽんぽんと叩く。素直にアフロディーテが隣にすとんと座って、また首を傾げる。
「飲まないのかい?」
 ガラステーブルの上にはとっておきのワインと二つのグラス。お摘まみのナッツとチーズが乗った皿。キッチンにはきっとアフロディーテが作ってくれた夕飯もあるのだろう。どれも魅力的だが、やはり今はアフロディーテが欲しい。
「シュ、」
 アフロディーテの口が開いた刹那、シュラは唇を重ねる。舌を差し込むと最初は驚いた様子だったが、アフロディーテもまた舌を絡め返す。一旦離れて唇の他に頬や泣きぼくろに、あちこちにキスの雨を降らせていく。
「今日は、そういう気分な訳?」
「…あぁ。」
 お返しとばかりにアフロディーテから口付けられる。それを享受しながらシュラはアフロディーテのYシャツのボタンを外していく。さっき撫でた薔薇の花びらの様に、すべすべで滑らかな白い肌に指を滑らせる。些細な愛撫にも律儀にピクン…と反応を返すアフロディーテに、シュラは可愛らしいと耳許で囁く。白い頬が赤く色付き、魚は毒づく。
「シュラの馬鹿。」
「どうせ俺は馬鹿だ。」
「…ばか。」
 とびきりのワインは明日三人で飲もう。だから今日は二人で甘美なる夜を。

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どっちも大事だけど、今日はこっちを取ります。


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