オックスブラッド

 美味しそうなモーニングの香りに誘われてリビングに出て来るなり、アイオリアはその逞しい身体をピシリと硬直させた。微妙に丈の合わないシャツからスラリと伸びる白い脚。少しぶかぶかの袖は腕捲りをしても何度も擦れ落ちてきている。それでも煩わしいと思わないのか、アフロディーテは袖を捲りながら、出来上がったサンドイッチや他の料理を皿に入れテーブルに並べていく。
「おはようアイオリア。良く眠れたかい?」
「あ、あぁそれは大丈夫だが…。」
「うん?」
「…何故、俺のシャツを?」
「手を伸ばして掴んだ服がたまたま君のシャツだった…それだけだが?」
 何か問題でも?と小首を傾げるアフロディーテにアイオリアはハァ…と小さくため息をつく。当の本人には言った言葉以上に意味はないらしい。故にアイオリアが何故ため息をついたのか分からずに、またこてんと首を傾げていた。
「朝食出来た…ってアイオリアどうかし、」
「余り可愛いことをしないでくれないか。」
 我慢出来なくなる…と言いながらアイオリアは背後からアフロディーテを抱き締める。水色のふわふわの髪の毛を避けると、顕になった首筋に昨日も散々着けたキスマークを残す。
「ッアイオリア。」
「この間のハロウィンといい、今日のこれといい…。俺を煽って一体どういうつもりなんだ?」
「どういうつもりも、何も無いよっ…。」
 ただ其処にあったから着ただけだ…とアフロディーテの言葉は変わらない。
 この魚座が天然であることは知っている。それを抜きにしても無自覚でこういった行動を取られては、こちらの身も心も持たない。
この大海を自由に泳ぐ美しい魚座から。色んな意味を含んで目が離せなくなる。
「アイ、オリア…いい加減にしないか…っ…。」
 身動いでなんとかアイオリアから逃れ様とアフロディーテはもがく。しかし腕の拘束は強く、首筋の皮膚を吸い上げられ、厚い舌がぬるぬると這う度にアフロディーテの抵抗は小さくなっていく。そんな大人しくなったアフロディーテを見計らってか、アイオリアの指先がシャツに掛かり、ぷちんぷちんとボタンを外していく。はらり…と開いたシャツの中から出てきた白い肌の上を、陽に焼けた手のひらが撫でていく。
「…アイオリアってば…!」
 火が点いてしまった獅子の動きは止められない。毒薔薇を用いればそれは可能だが、昨日の今日で愛された尽くした身体と、快楽に揺らぐ小宇宙では薔薇を精製することは難しい。何より愛してしまった獅子にそこまでするのは可哀想である。
 ふと、離れていく獅子の熱。白い首筋に咲く沢山の赤い花。まるで魚座が操る薔薇みたいだと、それにこれを着けたのは自分であるということにアイオリアの表情は何処か満足そうだ。
「…アフロディーテ?」
 振り向いた魚は直ぐ様アイオリアの背中に腕を回して、肩口に顔を埋める。
やり過ぎてしまった…。そう自覚した瞬間から、沸いていた頭が刹那の早さで冷える。抱き締める腕の力が強くなってきて、早く謝らねばと謝罪の言葉を紡ごうと口を開いた時だった。塞ぐ様に重なる唇。ぬるり…と入り込む赤い舌。擦りあって出来た糸が二人の間を繋いで、ぷつりと切れた。
「責任…取って貰うよ。」
「…す、すまない。」
「謝らなくて良いから……はやく。」
 蟲惑的に微笑む麗人。ついさっき一瞬の内に鎮火したのが嘘であるかの様に、アイオリアは早急にアフロディーテの唇を奪った。

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忘れた頃にやってくる彼シャツシリーズ(嘘)←

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