微熱38度 柔らかなベッドの上で一輝は目を覚ます。この部屋に見覚えなんてない。どうやら何者かに連れられ寝かされていたらしい。何故こんなところに寝ているのか、そもそも我が身に何があったのか。そして一体誰が自分を運んだのか…と思った瞬間、不意に枕や掛けられたシーツから香ってきたのは薔薇の匂い。考える間もなく誰なのかが分かってしまった。 「目が覚めたかい。」 後ろ手に扉を閉めながら犯人…もとい、魚座のアフロディーテは部屋に入ってきた。一層薔薇の香りが強くなった気がして、華やかな匂いになれぬ一輝は眉間のシワを増やす。 「貴様これはどういう……っ?」 「ああ、起きないほうが良い。もっとも起きられないと思うがね。」 起き上がろうと身体に力をいれるが、アフロディーテの言う通り身体は動かなかった。 「…俺の身体に何をした。」 地を這う様な低い声。その辺の兵だったら怖じ気づいて逃げ出すだろうが相手は黄金聖闘士。ドスの聞いた声も彼等には小鳥の囀りにしか聞こえないらしい。 「起き抜けに君が暴れぬ様に赤い薔薇を少々…な。まあシャカに五感を剥奪されるよりマシだろう?」 「どちらもごめんだ、今すぐ戻せ!」 「幾ら君とは言えあと数時間は無理だ。諦めたまえ。」 にっこりと笑みを浮かべたアフロディーテにさらりと受け流され、一輝の額には青筋が浮かび上がる。 血気盛んな鳳凰が凄い睨みを利かせる中、持ってきた洗面器を近くのサイドテーブルに起き、椅子を持ち上げるとアフロディーテはサイドに陣を取る。おもむろにアフロディーテの指先が一輝の頬に触れた。 「な、にを…。」 「大人しくしたまえ。」 頬から上へ。今度は額に手のひらをおく。自身の額にも手を当てて、まるで熱を計るかの様だ。 「熱…?」 「…ふむ、やはり熱が上がっている様だな。」 「まさか、有り得ん。」 発熱なんてここ数年やったことがない。そう言う一輝に、アフロディーテは確かに発熱していると言う。 倒れた一輝を見付けたのは双魚宮の庭園だった。始めは成分調整中の毒薔薇の花粉が飛んでいったのかと思ったが、薔薇達に聞けば自らパタリと倒れたのだと言う。アフロディーテの言葉に一輝は目を白黒させていた。 「炎に所縁があり熱いことに慣れてしまったが故に、基礎体温が上がり発熱しても自身では分からない状態になっている…と言ったところかな。」 「そんな馬鹿な…。」 一輝がこんな風に狼狽えている様子をアフロディーテ珍しく、しかしこれ以上不安を煽らぬ様に瑠璃紺の髪の毛を優しく梳きながら鳳凰を宥める。 「一時的なものだろうさ。少し休めば良くなる。」 氷が浮く冷たい水から引き上げたタオルを固く絞り、額に乗せる。さっきより幾らか赤みが差してきた頬をもう一度撫でてやると、徐に一輝が口を開く。 「……なぜ、」 「うん?」 「何故俺を助けた?」 「愚問だな。可愛い後輩を助けるのに理由がいるのかい?」 「誰が可愛い後輩だ、貴様にその様に言われる筋合いは無い。」 良い終えるや否や、一輝の瞼がゆっくりと閉じる。次に聞こえてきたのは穏やかな寝息。起きたらまた噛みつかれそうだが、これ以上興奮させて更に熱が上がってもいけないと、催眠効果がある薔薇を使って一輝を眠らせる。 寄せっぱなしだった眉間のシワも次第に無くなり、寝息と同じく表情も漸く落ち着きを取り戻した様だ。 「ふ…寝顔は年相応だな。」 シーツを掛け直してアフロディーテは部屋を出る。次に目が覚めた時には、きっと鳳凰は元気に羽ばたいて行くだろう。 ―――――――――――― アフロちゃんは面倒見が良いと信じて疑わないシリーズ(嘘) 一輝くんも何かと無茶苦茶しそうな気がしてならない。なんかこう…勢いでいっちゃえー!っていったらいけちゃうみたいな。これは星矢くんにも言えるか(火エレメントず) |