ヨーグリートオレンジ

 例えば、此処の庭園の写真を誰かに見せたとする。何処かの観光地ではないか…と、勘違いして仕舞う位に、双魚宮の庭園は綺麗だと思う。とは云うものの、星矢自身そう思える様になったのは最近の話だったりする。一度は魔宮薔薇の香気や棘に殺され掛けた事がある故に、素直に綺麗と思えるまでには時間が掛かっても然るべきだ。
 しかしずっと嫌がってもいられない。何せ彼が守護する双魚宮を越えねば、教皇宮…さらにはアテナ沙織がいるアテナ神殿へは行けないのだ。自身のリハビリも予て一度だけ双魚宮を通ったことがあるが、復旧して間もない筈なのに、そこにはまるで最初からそうであったかの様に庭園には魔宮薔薇達が咲き誇っていた。
「あの時は魔宮薔薇だけ早急に生長させたんだ。片や半壊、片や全壊。十二宮本来の機能が果たせない、そんな時に敵に攻めいられては不味いだろう?」
 双魚宮は黄道十二宮にて一番最後を守護する宮。後ろには教皇…更には我等が女神がいる。此処を抜かれたら終わりなのだ。故に、アフロディーテは守る為に他の心配を余所に小宇宙を燃やしたのだと、後になってそう聞いていた。
 アフタヌーンのおやつ目的の星矢と同じく、テーブルを囲んでいたデスマスクが眉間にシワを寄せてアフロディーテに苦言を呈す。
「だからってロクに小宇宙も回復してねぇのに、全力で魔宮薔薇咲かせて倒れんなよ。」
「仕方無いだろう。それに君には部屋を一つ借させてやっていたんだ、倒れた幼馴染みを助けるのは当然だと思うが?」
「ふざけんな、あの後俺様がどんだけ苦労したこt…ぎゃぴぃ!?」
 奇声を上げながら刹那デスマスクは床に突っ伏した。勿論デスマスクに一発かましたのはアフロディーテである。殴るだけの為に光速を使うのは、やはり無駄遣い以外のなにものでもない。が、星矢はそのことについて黙っていることにした。デスマスクの二の舞いは踏みたくないからだ。
「…でもさ、やっぱり一辺に咲かせるって云うのは、俺でも無茶だと思うな。」
「成長したと思っていたが甘いぞ星矢。聖戦が終って間もない、傷も癒えぬ聖域を好機だと思い敵が攻めてこないと何故言える?」
「それは…。」
「それに今こうしている間も、何者かがこの地上で暗躍しているかもしれない。常から何が起きても対応出来る様にしておきたまえ。」
 先達の言葉は最もだ。
「でもさ……ずっとそれだと疲れちゃわないか?」
 アフロディーテの小宇宙がほんの一瞬揺らいだ。
「…我等は聖闘士だぞ。」
「ああ、俺達はアテナの聖闘士だ。だからって全部が全部、一人で背負うことはないんじゃないかな。」
 ……どうしてこうも、青銅の子達は知った様に、同じことを言ってくるのだろうか。甦って以降余り青銅の子達と交流をしていないと思っていたが、こう言われるぐらいには、距離が近くなっていたらしい。星矢から向けられる視線は相変わらず真っ直ぐで淀みない。黒茶色の瞳は力強くそれでいてとても綺麗だった。
「アフロディーテ?」
「…いや、なんでもない。」
「?そうか。なんかあったら遠慮しないで言ってくれよな。」
 人懐っこい笑みを浮かべながら星矢は言った。
 それから直ぐに星矢は、アテナに呼ばれているのだと双魚宮を出て行く。今夜の誕生日パーティーについての話だろう。
「やはり…射手座は眩しいな…。」
 年相応の無邪気な表情をさせながら「じゃあまた後で。」と言い残した天馬を、アフロディーテは目を細めながらその背中を見送った。

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星矢くん誕生日おめでとうー!
何時までも皆の希望でいて下さい……って去年も似たようなこと言った様な…(笑)
ちな蟹は気絶したまんまです。ごめんでっちゃん←

12/1の誕生酒はヨーグリートオレンジ。特徴は華やかで活力に満ちた熱血屋です。

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