ライラ

 ベッドには愛しい魚座……ではなく、魚が転がっていた。
「なんだお前かよ…。」
 一人呟きながらデスマスクは鮪の抱き枕を殴った。見た目にそぐわない柔らかしっとりボディだ。手持ち無沙汰故にイクテュエス(鮪の抱き枕)をもちもちしてやる。双魚宮の主はまだ戻ってこない。否、宮の中にはいるのだがアフロディーテは未だに入浴中らしい。サガほどではないにしろ、温めの風呂を好むアフロディーテの入浴時間はどうしても長くなってしまう。熱く沸かせば早く上がるだろうが、その分逆上せやすくなるだろうからこの作戦は無理である。それに何より熱いのが苦手な彼を逆上せさせるのは可哀想だ。
 心なしか揉みすぎて綿が寄った気がするイクテュエスをベッドに転がし、デスマスクもまたベッドに寝転がる。
「あー……薔薇くせえ…。」
 魔宮薔薇の…アフロディーテの匂いが染み付いたシーツを引き寄せ、肌触りの良いそこに顔を埋める。早く本物のアフロディーテをこうして抱き絞めてやりたい。ふわふわでさらさらな水色の髪に顔を埋めて、薔薇の香気を堪能したい。
「…まだかぁ。」
 我ながら随分と情けない声音だと思った。そして相当重症だとも。
「なんて顔してるんだい。」
 水に濡れた薔薇の香りに、顔をあげれば寝室の入り口にはアフロディーテの姿があった。
「ったく、遅ぇんだよ…。」
「長く入っていたつもりはないんだけ、どわあっ!?」
 色気のない悲鳴。軋むベッドにアフロディーテを引き倒して、すかさず上に乗った。まだ若干濡れたままの水色の巻き髪からは焦がれた薔薇の香り……アフロディーテの香り。
「そんなに待ちきれなかったのかい?」
「そういうお前はどうなのよアフロディーテ?」
「…無事に帰還してくれて何よりだ。」
 二ヶ月。互いに任務やなにやらでここ二ヶ月は会えていなかった。焦がれているのは眼下の魚も同じだ。どちらともなく唇を寄せ口付ける。漏れ出る吐息すら惜しむ様に深く深く。舌を絡ませ合った後、ゆっくりと離れていく二人の間を繋ぐ銀の糸。
「デスマスク…。」
「もっと、だろ? 分かってるっつの。」
「ん…。」
 望むのなら幾らでもくれてやる。だから。
「もっとお前を感じさせてくれ。」

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ライラのカクテル言葉は「今、君を想う」

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