朝はまだ遠く 「おなかすいた…。」 子どもみたいな文言だと思った。起き抜け故にぼんやりとしているアフロディーテは再度、隣で寝ていたデスマスクに空腹を訴える。 「起きるの面倒くせぇ。」 「誰のせいで腹が減ったと思っているのだ。」 「なんだよ、お前だって乗り気だったじゃねぇか。」 そう、二人きりでこうして過ごすのが久し振りということもあり、昨夜は燃え上がってしまったのだ。昨日の夜からロクに食事も取らずにセックスに耽って……今に至る。まだ大陽は出ていないが、朝には違いない。どちらともなく、腹の虫が鳴いた。 「デスマスクー…。」 「分かったって、ちょっと待ってろ。」 黄金聖闘士とて所詮は人の子。食わねば生きてはいけない。根負けしたデスマスクが仕方無いと、ダラダラと歩きながら寝室を出ていった。 デスマスクを待つアフロディーテはベッドサイドに手を伸ばす。が、そこにはティッシュとローションと空になったタバコの箱。食べ物はおろか飲み物も何も無かった。ジッポに指を掛け火を着けてみる。直ぐにキャップを被せ消す。何度か繰り返して遊ぶが直ぐに飽きた。 元の場所にややオイルが減ったジッポを戻し、ベッドの下に落ちていた蟹クッションを拾い上げる。例によって例のごとく日本に行った際に購入したものだ。双魚宮にはこれと同じ時に購入した魚―日本人が好きな鮪と言ったか―の抱き枕がいたりする。ちなみに一緒に出張していたカノンは海の子達に関連するものを購入していて、クオリティの高さに「流石日本…。」と謎の感動をしていた。 やることもなく、かといって昨日の今日で身体も怠く、起きていくのも面倒で。暫くの間カルキノス(蟹クッション)をもふもふしていると、漸くとデスマスクが戻ってきた。 「遅い、危うく餓死するところだったぞ。」 「こんだけ肉付きが良いやつが、そう簡単に餓死するかよ。」 おらよ、と差し出された皿には魚介類が沢山入ったペスカトーレ。多分、昨日食べる予定だったものだろう。 「ん、美味いぞ。」 「当たり前だ。誰が作ったと思ってやがる。」 どや顔を浮かべるデスマスクは、同じく持ってきたワインを煽っていた。彼が何処と無く上機嫌なのもアルコールの力とあれば頷ける。 「うん? デスマスク、君の分は?」 「食おうかと思ったけどな…。パスタよりお前のほうが食いてぇ。」 カシャン…と、フォークが皿の上に落ちた。 「な、良いだろ?」 「…パスタ食べ終えたらな。」 「とか言って、最後の一口いつまでも残すのとか無しだからな。」 作戦はとっくの昔にバレてた様だ。流石というべきか。やはり…なんやかんや言いつつ、この蟹座に自分は弱いらしい。 ―――――――――――― お互いに惚れた弱みをもつ蟹魚。 |