猫じゃらし 獅子宮に下りた時のことだ。途中で星矢達青銅の子が、なにやら楽しそうな雰囲気で全速力で獅子宮を抜けていった。折しも今日はハロウィンで、大体なにがあったか察しがつく。 「やっぱりな。」 居住スペースにいたアイオリアは案の定悪戯されていた。悪戯と言っても可愛いもので、彼の頭部には猫耳がついたカチューシャを被らされている。彼の星が猫科の動物故に、妙にそれが似合っていた。 「何故だ…!」 「お菓子を上げなかったから…じゃないのかい?」 「やった、ちゃんと人数分…。なのに何故悪戯されねばならんのだ…!」 "お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!"ではなく"お菓子をくれても悪戯するぞ!"だったらしい。斯く言うアフロディーテも、双魚宮から下りてきたこともあって、偶然とはいえ出会った星矢達へのお菓子を持って来てはいなかった。何時頃に彼等が聖域を訪れるかわからなかったので、ある意味悪戯されても仕方無いと言えば仕方無い。今日はそういう祭りなのだから、そう思いアフロディーテは可愛い後輩達の悪戯を受け入れた。 「…だからアフロディーテも猫耳を着けているのか…。」 「ふふふ、似合うかい?」 「ああ、俺より何十倍もな…。」 水色の巻き毛の上に生える白い長毛の猫耳。何をどう考えて青銅達はアフロディーテにこの猫耳を着けたのだろうか……。 「アイオリア。」 「なんだ。」 刹那の思考巡り。何時の間にか距離が詰まっていた。この世のものとは思えない整い過ぎた美しいかんばせが、近い。見慣れているとは言え、この鼻先がぶつかるほどの距離で見詰められれば、心臓も喧しく鳴るのは当然だ。 「アフロディーテ、ち、近いのだ、が…。」 睫毛長いなとか、唇艶々で美味しそうだなとか、明後日の事を考えている場合ではないのに。一人悶々とするアイオリアに、アフロディーテはふっと口許を綻ばし、言った。 「にゃあ。」 「!?!?」 「ぷっ…くく、あははははっ! なんだいその顔!」 顔を真っ赤にしながら口をぱくぱくさせるしかないアイオリアに、アフロディーテは笑いを止めることが出来ないでいた。 無理もないだろう。この美貌で「にゃあ」と可愛く鳴かれたら堕ちないものはいない。 「ふふ、ふ…何時まで固まってるんだいアイオリア?」 「…性格が悪い。」 「ああ、悪いとも。」 否定しないところが彼らしい。 「さて、アイオリア。これから二人で悪戯をしようじゃないか。」 「誰にだ?」 「勿論青銅の坊や達さ。…されっぱなしは性に合わないだろう?」 悪戯っぽく笑う姿にまた心臓が跳ねた。獅子宮を抜けて恐らくはシャカの処女宮にて足止めを食らっているだろう、小宇宙を消して光速で双魚宮に上がれば…と何やらアフロディーテは色々と思考を巡らせている。 存外アフロディーテは……否、年中の三人は面倒くさいだのなんだのと言いながら、こう言った悪戯事には結構乗り気であった。幼い頃、兄との修行の帰りに良くシオンに"うろたえるな小僧ども"と投げられた後、懇々と説教をされていな…と思い出す。 「同じ、だな。」 あの頃の表情と何一つ、変わっていない。隣で企む麗人の表情は、実に楽しそうで。 「……ふむ、やはり青銅の坊や達はシャカに構われているらしい。行くなら今だな。」 「それは良いがアフロディーテ、悪戯と言っても具体的に何をするつもりだ?」 「それはまだ秘密だ。」 そう言ってアフロディーテは片目を瞑った。 ―――――――――――― ハロウィン終わってから降臨したネタ← |