ジリョーヌイ・スティンガー

 天秤宮に彼の小宇宙があるのは久し振りだ。暫くは五老峰に戻っていると聞いてはいたが、今日戻るとは想定をしていなかった。急な案件が入ったのか……いや、恐らくそうではないだろう。老師…否、童虎が出ねば為らない程の重要案件があるならば、それはきっと聖戦レベルに値する。本人に言えばそれは買い被り過ぎじゃ、と人懐っこく笑うだろう。
 天秤座は計る者であり物事のバランサーである。善悪は勿論のこと、様々な物事を知り平等に計りそして判断を下す。自己の感情に負けない強い精神が必要になる。何時もは飄々としつつも実年齢はシオンと同じく200を越える爺であり、生きてきた時間の分、人やものを視る目は確かだ。故に彼は女神の慈悲で蘇った今も、数多くの人に慕われている。畏れ多いが、自身もまたその一人なのだけれど……。
「難しい顔しとるのぉ。またなんぞ抱え込んではせんか?」
「! …老師、何時の間に…。」
「かっかっか! さっきから居ったぞ、何せ此処は儂が守護する天秤宮じゃからな。儂の存在に気付かない程に、何か考えていた様じゃなアフロディーテ?」
「いえ…別に。」
「嘘をついてもお見通しじゃ、お主は顔に出るからのう。」
 嘘をつくことにも、表情にそして感情に出さない様にするのにも慣れている。しかし肉体年齢18ながら老巧の童虎にはバレているらしい。先達を騙す気は更々ないが、見抜かれている時点で自分もまだまだだなと省みる。
「儂はもう気にしとらんよ。あれがお主らの咎ならば儂の咎でもある。何よりアテナがお赦しになられたのじゃぞ、これ以上…自分で自分を責めるでない。」
 やはり彼はきちんと視ている様だ。
 自ら茨の道を行くと決めた。力こそ正義。あの時、あれ以上聖域が…命溢れる美しい地上が荒れるのが嫌だった。アテナの聖闘士となったのはその命を護る為だ。なのに、私は女神の聖闘士であるのに、彼女の聖闘士であることを捨てて彼に付き従った。結果として聖域も地上も平和が戻ったのだ。自分達のやってきたことは間違いではないと自負している。けれども我等の正義は、見方を変えれば悪であった。正義と悪は表裏一体。故に我等は覚悟していた。いつか罪として裁かれるその時を。そして彼等に断罪された。
 蘇った今でも、アテナの聖闘士としてあるまじきことをしたと思っている。しかし結果はどうあれ自分が選択してきたことに後悔は、無い。
無い、筈なのに。
「…お主は優し過ぎていかんな。」
 少し低い位置から童虎の手が伸び、アフロディーテの頬を伝うものを拭ってやった。
「…いつか貴方にも詫びねばと思っていました。」
「詫びなどいらんぞアフロディーテ。言ったはずじゃ儂はもう気にしとらんとな。」
「……童虎。」
「ほれ、泣き止まんか。折角の美人が台無しじゃぞ?」
 幼子を泣き止ます様に、淡いグリーンのチャイナ服の袖口でごしごしと目元を拭われる。益々目元が赤くなった気がするが、多分気のせいだろう。
「そうじゃ肉まん食べてかんか? 思いの外作りすぎてしまってのぉ。」
 外も暗く、寒く、腹も減っててきたし丁度良いじゃろう…と。
「…頂きます。」
「ならば善は急ぐぞ。」
 人懐っこい笑みを浮かべて童虎はアフロディーテを引っ張って行った。

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話の内容は祝ってなくてあれですが、童虎さんお誕生日おめでとう御座います〜!

10/20の誕生酒はスティンガー。特徴はみんなから信用や信頼を集める貴公子。

ジリョーヌイは中国語で緑色。

本日はまんま誕生酒のスティンガーってつけようと思ったのですが、別の文章のタイトルで使っちゃってたので…←


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