#562806

 テーブルに置かれた箱の中にはチョコレート達が収められていた。定番のスウィートにほろ苦ビター、ホワイトチョコにストロベリーやオレンジピールといった実にカラフルなラインナップだ。徐にナッツ入りのチョコを掴むのは白皙の指。艶やかな唇が開かれ、ぱくりと一口で食べるのは魚座の麗人。ぱりぱりボリボリとナッツを噛み砕いて、舌の上でガナッシュを溶かしてじっくりと味わってから嚥下する。そのアフロディーテの姿にシュラは思わず釘付けになった。
 ぶっちゃけた話、最近ご無沙汰なのである。
 アフロディーテに勅命が下り聖域を開けたのが三週間前。任務は無事に終わったのも束の間、今度はシュラに任務が入ったのが二週間前。それを終えてもなんやかんやと二人きりで逢えない時間が続いていたのだ。存外寂しがりやなアフロディーテだが、己を律する元々の精神が強いからか、余り彼のほうからやって来ることも無かった。故に今日はシュラ自らが双魚宮に足を運び、こうして二人きりで穏やかなシエスタを過ごしている。
こうなってしまうのには、ある意味で孤独に慣れすぎたせいとも云えるだろう。それを言うならば双子座も蟹座も、そして自分にすら言えることなのだが……。
「また何か悩み事かい?」
「…いや。」
 本当に? と訝しむアフロディーテが指先についたココアパウダーを舐めとる姿に心臓がどきりとする。瑞々しい赤い舌が指先を軽く吸う……たったそれだけのその姿が妙に色っぽくて、押し殺した感情がむらむらと込み上げてくる。欲しい。今すぐにでもアフロディーテが欲しくて堪らない。
「アフロディーテ。」
 普段は超ストイックなシュラだが、それも全ては己の目的を達成する為。情事に置いては最高の快楽と絶項を味わう為である。
 熱の籠った視線をアフロディーテへ投げ掛ければ、それに気付いた魚のアクアブルーの瞳が泳ぎゆらりと揺れる。
「ま、まさかシュラ…。」
「そのまさかだ。」
 うろたえるアフロディーテへと手を伸ばす。…が、刹那の早さでバチンッと叩かれ、その勢いでテーブルに強打した。
「チョコはやらんぞ。」
 鈍痛する手を擦りながらテーブルの箱の中を覗けば、たくさんあったチョコ達はアフロディーテの胃袋に消え、最後の一つだけが残されていた。
 どうやらアフロディーテはこの最後のお楽しみのチョコを食われると勘違いしたらしい。
「全く…食べたいのなら最初開けた時に言えば良いものを…。」
「いやそうじゃなくてだな。」
「だったら何故そんな欲しそうな目線をしているのだ?」
「……そ、れは…。」
 思わず泳ぐ深緑の三白眼。チョコじゃなくてお前を食べたいと正直に言えば、今度は拳か薔薇が光速で飛んできそうな気がする。なんとか反論したいところだが、どうにも反論は出来なそうで。取り敢えず視線を元に戻す。
「…やらんぞ。」
「だからチョコは要らんと言っている。」
 疑いの眼差しを向けるアフロディーテが、最後のチョコを口の中に収めた瞬間、シュラが動いた。
「っ!?」
 唐突に重なる唇に差し込まれるシュラの舌。アフロディーテの舌とチョコ両方を味わう様に、動き回り咥内を貪られる。二人分の体温に挟まれたチョコはみるみる内に溶けて小さくなっていく。飲み下せない唾液と混ざりあったチョコがアフロディーテの口端をとろりと濡らして、染み付いた薔薇の香りと混ざり合いシュラを酔わす。
「っ、ん、んぅ…。」
 文字通りの甘い口付けを繰り返されてアフロディーテの瞳もまたとろんと蕩けてくる。彼もまたご無沙汰なのだ。一度炎が灯ればその火を抑えることは難しい。始めは縮こまっていた舌も、次第に積極的に差し出してそして絡ませてくる。残ったチョコを舌ごと吸い上げれば、少しだけ苦しそうなくぐもった吐息。ゆっくりと離れていくシュラとアフロディーテの間には名残惜しげに糸が繋がっていた。
「……ほら、やっぱり…。」
「俺が欲しいのはチョコじゃなくてお前だ…アフロディーテ。」
「どうして君は最初から言わないのだ…。」
「言ったら怒るだろう?」
「それは怒るさ。」
 しかしそれも時と場合によるがな。と、呟いた魚座に今度はシュラの唇が食べられた。

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…という夢を見たんですよ←
朝からわああああああryってなってその日一日頑張れました(笑)←

#562806のカラーネームはチョコレート。

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