トランキライザー

「サガ。」
 此方の姿を見付けるとアフロディーテはひらひらと手を振ってくる。此方も手を上げて彼へ返事を返す。用事が終わったらしいアフロディーテが足早に近く。あれに染み付いた薔薇の香りが、廊下の雰囲気を少しだけ明るくした。
「…どうかしたんですか?」
 何も言わず黙ったままの自分に対してアフロディーテは訝しむ。また何か面倒な事を抱えこんだのではないか…と、怒った様にそれでいて困った様に魚座は見付める。
そうではない、とサガは首を横に降る。では他に何かあったのかと、未だに心配するアフロディーテの手を掴むとサガ彼と共に直ぐ近くの部屋へと入った。
 広大な教皇宮内にある図書室の一つ。古くからの書物と最近の新しい書物が収められているこの部屋は、存外人の往来が少ない。人の手で小まめに掃除はされている様だが、それでも本棚には埃がうっすらと乗り、余り使われていないせいか何処と無く空気も埃っぽく感じられた。
「? この部屋で何か探し物――。」
 言葉を言い終える前に、魚を求めて乾き餓えた双子の片割れは彼の唇に食らい付く。突然のことに硬直するアフロディーテの咥内に侵入するのは容易いことだった。差し入れた舌で歯列をなぞり、次いで絡め取った舌を何度も擦り合わせる。途中で口を離せば銀色の糸が紡がれ、プツンと切れた刹那、角度を変えて再びアフロディーテの咥内を貪る。
「…ふ…っ、…んッ、ッ…!」
 舌の根からキツく吸い上げればアフロディーテから苦しそうな息が漏れた。口の端から溢れる唾液も、隙間から漏れ出る微かな吐息ですら惜しいと、サガは混ざりあった二人分の唾液ごとゴクリと飲み下す。
「は、…あぁ…っ…。」
 漸く自由になったアフロディーテの口は散々弄ばれたせいで、艶やかな唇は真っ赤に腫れ、唾液が残ったそこは鈍い光を返す。
「…アフロディーテ。」
 愛しい魚の名を呼ぶ。未だに少し息を乱しながら、アフロディーテは何故と問う。
 お前のことが好きだから、触れたいと思った。思ってしまった。神聖な教皇宮で魚座に対して劣情を昂らせてしまったのだ。赦されることではないと理解している。けれども欲望はサガの心を容赦なく浸食していく。アフロディーテが欲しくて欲しくて堪らない。行為を進める手は止まらない。否、止められなかった。
「愛している。」
 要らぬ嫉妬に狂うほどお前のことを愛してる。こんな私を、どうか赦して。
「サガ。」
 顔を上げれば慈愛に満ちた微笑みを浮かべるアフロディーテがいた。

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相変わらずサガさんがアフロちゃんを拗らせてる。そして気を抜くと双子兄魚もシリアス系になる←

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