藍花簪

 教皇宮の執務室。夏場の執務室は暑い。いや執務室だけではない。黄道十二宮の頂点にある教皇宮は全体的に陽当たりが良く……というか、陽射しが入る部屋は結局何処だろうと暑いのだ。一応窓を開けるだけ開けてはいるのだが、大した風は入ってこない。せめて今日カミュと同じ時間の仕事だったら……と、考えている黄金は恐らくシュラだけではないだろう。
 じわりと滲む汗を拭い、ちらりと向こう正面を見る。シュラが見詰める先に、魚座の執務机とそこに座り同じく書類仕事に追われるアフロディーテの姿があった。
 徐にペンを置いたアフロディーテは纏めていた髪を下ろし、長い巻き髪を結い直し始めた。何やら長い棒――簪とか言ったか――でくるくると纏めた髪に簪を差して留める。
 確かアテナが先日聖域を訪れた際に髪の毛が長い者達を呼んで、彼女より賜ったのがその簪であった。夏場の暑い日に使って下さいねとアテナに言われた長髪組は女神のお心遣いに、短髪組は己の髪の短さに涙したとかしないとか。
 最初は棒一本で髪の毛が留められるとは思っていなかったが、アテナから使い方を習い、アフロディーテが実演した時には謎の感動すら覚えた程だ。
 以来アフロディーテを始めとした長髪組は執務の時などで簪を使っている。アテナから賜ったものだ、無下には出来ない。否、出来る訳がない。
「シュラ、手が止まってるよ。」
「あ、ああ…すまん。」
 視線に気付いたのかジトリ…とした目付きでアフロディーテに見咎められる。…わざとなのか。一房髪が落ちている姿は何処と無く色っぽい。上気した顔。うっすら汗ばんだ白い肌の上を伝い落ちていく汗。首筋に付けたキスマーク……そんなアフロディーテの姿を見てシュラは昨夜の情事を思い出していた。
(俺は執務中になんと云うことをっ…!!)
 邪な想いを抱えて一人悶々とするシュラに、天然のアフロディーテが追い討ちを掛ける。
「…駄目だ、暑い。」
 ぷちん、ぷちんとボタンを外し、アフロディーテはワイシャツの前を少し寛げる。その隙間から鎖骨が見え、その上や胸元に付けたキスマークが一瞬晒される。
「アフロディーテっ!!」
「うおっ!? な、なんだシュラ急に大きい声を出して…。」
「あっ…いや、その、ええと…こ、この後ちょっと付き合ってくれないか?」
「…うん? 君から昼食の誘いとは珍しいな。」
 良いぞと笑うアフロディーテに、どうしてそう急で突拍子もない発想に至るのか……。シュラはそんなアフロディーテが甚だ不思議であったが、何てことはない。執務室の時計は丁度十二時を指しており、嗚呼成る程そういうことか…とシュラは納得した。

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