ティラミス

 初夏を過ぎた太陽は日に日にその光の強さを増す。今日はまた随分と気温が高いらしく、少し動いただけでも汗が流れる。昼間の暑い中での庭園の管理作業も程々に、残りの作業は日が落ちてからにしようとアフロディーテは一旦日影に避難する。
 このくらいの熱さで萎れる様な薔薇達では無いことは自分が一番良く理解している。が、それでもやはり植物は植物なので、心配は心配であった。夕方の水撒きはたっぷりしてあげよう……そう考えながらタオルで汗を拭っていると髪を上げ露になっている首に何やら冷たい感触。余りの冷たさに身体が反射し、素っ頓狂な声が出て仕舞った。
「〜〜ッ!!いきなり何をするんだこのバ蟹ッ!!」
「なんだよ折角差し入れに来てやったのに、お前こそそんな言い方は無いんじゃねぇの?」
 振り返った其処にはデスマスクがいて。首に当てられた冷たいもの……グラスに氷がたっぷり入った水を持ち、にしし…と悪戯っ子の様な人が悪い笑みを湛えていた。
 差し出されたグラスをデスマスクから半ば引ったくる様に取ると冷えた水を喉に通す。なんてことないミネラルウォーターにほんのりと感じるレモンの味と爽やかな風味。デスマスクがこの為にわざわざ作ってくれたレモン水を、アフロディーテは素直に美味しいと思いながら飲み干し、一息つく。
「暑い中ご苦労なこったな。」
「この先を護る為には必要なことだ。その為に薔薇達を管理するのが私の役目なのだからな。」
 アフロディーテの視線の先には教皇……更にはアテナの神殿がある。太陽はもうすぐ真上になるだろうか。ジリジリと石と地面を焼いている太陽を、アフロディーテは恨めしそうに今度は空を仰ぐ。
「ティラミス。」
「は?」
「昼のデザートにティラミス作ったって言ってんの。」
「…だから?」
 首を傾げるアフロディーテ。彼はティラミスに込められたメッセージを知らないから。しかしデスマスクも敢えてその意味を教えなかった。
「まあ、そんなに暑さにカッカすんな。昼飯食ってシエスタたっぷりとっとけや、な?」
「…今日はやけに構うのだな?」
「ばっか、お前が俺に構まれる様にしてるんだろ?」
「素直に寂しいと言ったらどうだデスマスク?」
「…もう良いから黙れって。」
 じゃないとその口塞ぐぞ、と声音を低くすればアフロディーテはやってみろとばかりに不敵に笑った。
 アフロディーテに触れようと腕を伸す。が、主を護る為か薔薇達が香気を強く更には棘を鋭くさせてきたので、デスマスクは渋々腕を引っ込めるのであった。

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意地っ張り達の減らず口。

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