アマリリス ふう…と一つ息をつく。今日一人で過ごしていた執務室に、久し振りに音が鳴った。それだけ長い時間サガは此処で事務仕事に追われていたことになる。 昨日から山を作っていた書類は大方片が付いていて、後は教皇シオンやアテナに直接確認して貰う書類が数枚あるだけだ。 これらはもう少し時間が経ってから見て貰うとして、何とか目標の朝までに終えることが出来た。同じ姿勢の弊害か、肩や首を回すと余り宜しくない音が鳴り、部屋に木霊する。 「また徹夜したんですか?」 コキン…とまたもや宜しくない音の後に、響いたのは聞き慣れた凛とした声音。トレイを片手に執務室に入って来たのはアフロディーテだ。 「早いなアフロディーテ。」 「おはようございますサガ。紅茶淹れて来たのでどうぞ。」 アフロディーテからティーカップを受け取りそれに口を着ける。コーヒーではなく敢えて砂糖とミルクを使った紅茶の優しい味わいに、アフロディーテの気遣いを感じてまた息をつく。徹夜明けの張が解れてリラックスして来たサガを見てアフロディーテは口を開く。 「…その様子だと忘れている様ですね。」 なんのことだろうか。アフロディーテの言葉を心の中で反復するが、思い当たる節が無くサガはとうとう首を傾げた。そんな様子のサガを見ながらアフロディーテは苦笑いを浮かべる。やがてその美しいかんばせは華やかに、敬愛する先達へ薔薇の花を捧げ、祝福を述べる。 「お誕生日おめでとうございます、サガ。」 本当に皆目見当がつかなかったらしい。鳩が豆鉄砲を食らったかの様にきょとんとするサガにアフロディーテは再度苦笑う。 「そうか…今日だった、な。」 「皆の誕生日はちゃんと覚えてる癖に、貴方は自分のこととなると頓着が無い。」 図星を突かれたサガはぐっと息を詰まらせる。自分に頓着が無く人のことばかりなのはアフロディーテも同じだ。現にこうして早朝から自分のことを気にしてやって来ている。それをぶつけてみたものの、私のことは良いから、とはぐらかされてしまった。 「今日の晩は何時もの様にパーティーをするのでそれまでは……。」 アフロディーテの言葉が途切れる。抱き締められたことに少しだけ驚いている様だった。 「サガ。」 「…有難う。」 「私は何も。」 「本当にお前は…私には過ぎたる者だ。」 肩口に顔を埋めると染み付いた薔薇の香り。嗅ぎ慣れたアフロディーテの香りに安らぎを覚えた途端、サガの意識は眠りへと誘われ即座に落ちていく。器用に立ったまま眠って仕舞ったサガをアフロディーテは抱き上げると近くのソファに横たえる。やはり疲れが溜まっていた様だ。顔色も何処か優れず、眠っているのに眉間には皺が寄っている。 「夜はパーティーで寝かせて貰えないだろうから、今だけでもゆっくり休んで…サガ。」 近くにあったブランケットを掛け、アフロディーテは暫く眠るサガを見守っていた。 ―――――――――――― サガさん誕生日おめでとうございます! 仮眠から起きたらアフロちゃんといちゃいちゃすれば良いよ← 5/30の誕生花の一つでアマリリス。花言葉は「誇り」や「素敵」等。 |