カタルシス

 今日の教皇宮内は割かし静かだ。何時もなら賑やかな黄金聖闘士が勤める執務室にいるのは、アフロディーテと白銀聖闘士が数名。そしてこの部屋にはいないがサガも教皇宮に詰めている。
 他にも何人か黄金聖闘士は聖域に残っているが、大半は聖域より出でて、アテナの護衛だったりと其々が任務に就いている。
 自分の分の書類を片しながらアフロディーテは共に執務につく白銀の子達の仕事を見ていく。黄金位以外にも、こういう仕事が出来たほうが良いと提案した教皇シオンの言を承けて、サガやアイオロスが交代で面倒を見ていた。シオンの提案にアフロディーテも異論無く寧ろ納得していたし、サガが特に力をいれるくらいだ。自分もそんな彼を見て何もせずにはいられなかった。
「ダンテはこことここを計算し直して再提出。アルゴルはここを直して再提出。…ミスティ、君はいい加減鏡を離せ。次は割るぞ?」
 黄金聖闘士も個性が強すぎるが、白銀も中々の曲者揃いだ。今後は見込みがある者には執務を任せ、それ以外はこれまで通りに広域任務にあてたほうが良さそうだ……と頭の隅に書き留めて、次に提出されたアステリオンの書類に目を通す。
「…アフロディーテ様。」
「どうしたトレミー?」
 いつの間に入り込んだのか肩に止まったジャミアンの烏を彼に突き返しながら、表情が思わしくないトレミーへと近付く。
「サガ様への書類を部屋に届けに行ったのですが、何故か開けて貰えず…。」
 小宇宙を探るが、教皇補佐役に宛がわれた部屋からサガは動いていない様だ。具合でも悪いのだろうか。しかし朝見た時には何ともないように思えたが…?
「皆はこのまま続けたまえ。定時が近いから、出来た者から書類を提出して帰る様に。」
 瞬間、鏡が割れる音とミスティの悲鳴が響く中、アフロディーテは颯爽と執務室を出ていった。


「サガ、私ですアフロディーテです。開けてくれませんか?」
 ノック後、声を掛けると人の動く気配がした。カチャリ…金属の音が落ちると、教皇補佐の部屋は呆気なく開かれた。
「サ…、」
 再び落ちた金属の音。壁に押し付けられるのと同時に、口付けられた。
「…ん…んんっ…、ぅ…ん…!」
 角度を変えながら咥内を深く貪られる。漏れる吐息すら惜しむかの様に吸われ、呼吸もままならないアフロディーテの顔は赤く上気していく。なんとか酸素を求めて顔を背け様とするが、簡単に顎を捕らえられて舌を甘く噛まれた。
 久遠に感じられる、刹那の口付け。次第にアフロディーテの身体から力が抜けていく。壁に完全に背中を預けながら、ずるずると床に吸い寄せられるようにへたり込んでしまった。
「サガ…どうして…?」
 アフロディーテの問い掛けにサガは答えない。キスにより半分蕩けてしまった表情をしながらも理性を持ってサガを見つめ返す。
「お前は、私のものだ…。」
 先程の口付けとは裏腹の、優しい優しい抱擁。肩口にサガの額が押しあてられる。
「…サガ、貴方は、」
 ――嫉妬…してくれたのですか? そう、言い終える前にアフロディーテの口は再びサガによって塞がれた。…どうやら図星の様だ。確かにここのところ、自分は白銀の子達を見ていてサガも教皇補佐として忙しくしていた。
「ん…ぁ、ふ…っん…。」
 嫉妬と劣情をぶつけるかの様な激しいキスに頭が痺れていく。存外サガは寂しがりなところがある。寂しがり、というよりは孤独が嫌いといった方が近いだろうか。13年間の、長い時の中で私はそんな彼を側で支えて来た。しかし幾らサガのかたわらにいても、彼の孤独は簡単には埋まらないし…やはり消せはしなかった。きっと私でなくても消せない。それぐらいこの人の闇は深かった。
「サガ…。」
 傍にいることしか出来なかった私に出来ること。それはこの人に自分の全てを捧げて、凡てを受け入れること。同情じゃなくて、この人を…サガを愛しているから。
「アフロディーテ…済まない…。」
「…謝らないで下さい。」
 サガも分かってる。
 分かっているのだ。だったら自分はそれで良いから。
 アフロディーテの慈しみを湛えた微笑みにサガはもう一度だけ詫び言を述べる。アフロディーテが着ている清らかな白で作られた法衣を剥き、露になった白い肌に早急に歯を立てた。

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魚は双子兄にとって癒しでいて欲しい。

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