光が漏れてる。眠れぬ夜を過ごしていた瞬は、寝室を出てトイレに向かう途中でリビングにまだ灯りが着いていることに気付く。暗闇に慣れた目を細めて、そして瞬は訝しむ。自分が聖域に滞在する時、アフロディーテはいつも気前良く自身が使うベッドを貸してくれる。少年の身体には大きく広すぎるベッドで瞬はいつも一人で眠る。同じ男なのだから、一緒に寝ても問題は無いと思う。況してや自分とアフロディーテは恋人という特別な関係だ。しかしアフロディーテは共に眠ることを、良いと言ってはくれなかった。私のことは気にしないで、君はゆっくりおやすみ…と花が咲く様に笑ってアフロディーテと別れたのが数時間前。
 あれから瞬は大人しくベッドに入っていたが眠気は来ず、微睡みにすら誘われない。そしてそれはアフロディーテも同じなのだ。リビングの隙間から見える彼はやはり起きていて、何か事を為している様だった。最近なんだか立て付けが悪くなってきているとアフロディーテが笑っていたリビングの扉を瞬は押し開く。きぃ…と軋む音にアフロディーテは振り返り、瞬の姿を捉えると少し驚いている様だった。
「眠れないのかい瞬。」
 そう言ってアフロディーテは眠る前と同じく優しく迎え入れてくれる。自分が寒くない様に、自らが羽織っていたカーディガンを肩から掛けてくれた。薔薇の匂い…いやこれはアフロディーテの匂い。
「ちょっと待っていたまえ。今ホットミルクを淹れてあげよう。」
「あっ大丈夫自分で淹れるから、アフロディーテはお仕事続けて?」
 そうかい?と言うアフロディーテの、リビングに備えてあるテーブルの上にはたくさんの種類の書類があった。アフロディーテが請け負った任務の報告書とか、会議の議事録とか。過去の祭事等の資料のまとめ直しや、古書の書き写し等、膨大と呼んでも間違いでは無いくらいの量だ。
 魚座の黄金聖闘士が代々受け継いできた魔宮薔薇の庭園の管理作業と平行しても、一日で全てを終えることは難しい。故にアフロディーテはこんなに夜深く、遅い時間まで書類仕事に追われているのだ。だからと言ってアフロディーテは仕事には一切妥協しない。どんなに時間が無い時でも彼は最後まできちんと仕事を熟す。だから余計に、彼のことを必要以上に案ずるのだ。
「ねえアフロディーテ。」
 自分で淹れてきたホットミルクの湯気が揺らぐ中、瞬はアフロディーテを見る。
「どうかしたかい?」
 アフロディーテは書類と資料を交互に見ながらペンを紙に走らせていく。
「無理しないで。」
「無理はしてないさ。」
「じゃあもっと自分のことに気を回して。」
「それはリザドの様に、ということかな?」
「もう、こっちは真面目に言ってるんです。」
 のらりくらりと言い躱すアフロディーテの顔を手のひらで包むと半ば無理矢理自分の方を向かす。
 それでもアフロディーテはまだ大人の余裕を浮かべていた。
「アフロディーテ。」
「なんだい?」
「今日は…今夜こそは貴方と一緒に寝て、朝を迎えたいんです。」
 瞬のこの言葉に一瞬ポカンとしながらも、刹那その美貌を惜し気もなく破顔させて笑い出したアフロディーテに、瞬は顔を赤くしながらも真面目に言っているのだと必死になる。それが益々可笑しくて。
「君にそこまで情熱的に誘われるとは、思ってなかったよ。」
「僕だって男ですよ!というかそういうつもりで言った訳じゃないんですってばっ!」
「分かった、分かったから。」
 目尻の涙を拭きながらアフロディーテは瞬の頭を優しく撫で、愛おしげに額に軽く唇を押し付ける。離れていくアフロディーテの顔を再度捉えて、瞬はアフロディーテの唇を奪った。
ぬるり…と侵入を赦した瞬の舌からは先程のホットミルクの甘み。"年下"の"少年"と思っていたアンドロメダの恋人は、何処で習ったか、たどたどしくも精一杯大人のキスをしようと舌を絡める。
「…僕だって"男"ですよ。」
「そちらの意味で寝るのではないと、つい数分前まで言ってなかったかい?」
「貴方がその気にさせたんです。…責任、取って下さいね。」
「…ふふ、困った子だ。」
 妖艶に微笑んだのは魚座の麗人か、アンドロメダか。

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狼さんな瞬くん。

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