フレジエ

 これはあいつらに復讐する為の話だ。何の、誰に対してかは順を追って説明したいと思う。
 二日前のことだ。丁度俺はその日三週間ぶりの非番の日で、アテネ市街に買い出しに来ていた。腐れ縁のシュラとアフロディーテに序でにあれやこれを買って来いとここぞとばかりに人を使いっぱしりに使いやがって…。俺が頼んだら前者はガン無視、後者はのらりくらりと躱されて買って来ないくせに……おっと、話が逸れたな。
 それでその買い出しの帰り道に、偶然新しく開店した菓子屋を見付けたんだ。普段ならそのまま聖域に帰るんだが、なんかその日は興味がそそられてな。何個か適当にケーキを見繕って買って帰った訳よ。
 …もう此処まで聞いたら大体察しが付きそうなもんだが、一応最後まで話をするぜ。
 その後は真っ直ぐ巨蟹宮に戻って自分の分の買い物を片したら、シュラとアフロディーテの分の買い物をあいつらのところに届けに行くわけよ。普通、頼んだ本人が此処まで受け取りに来るのが筋ってもんだと俺は思っているが、残念ながら取りに来ることはほぼ無い。
鍛練やらなんやら一つのことに夢中になったら前しか見えなくなるクソ真面目な山羊と、十二宮最後を護る為に魔宮薔薇を管理しなくちゃ為らないとかなんとか言って詰まるところ出不精な魚の為に、なんで此処までしなくちゃならんのか……。
 …だったら止めちまえば良い?
その通りだ。嫌なら止めれば良い。ある意味正論だ。だがな、俺がこの役割を止めると回らなくなるんだよ。こんなこと言うのは柄じゃねぇが俺達三人は、本当に上手いこと互いに差さえあって生きてきた。パズルのピースが嵌まるっていう感じ? 簡単に言えばそんな感じよ。俺が出来ない部分はアフロディーテかシュラが補ってくれて、逆にあいつらが出来ないところは俺かそのもう一人が補う。
そうやって来たんだ俺ら三人は。……そうしねぇと、きっとあの頃は耐えきれなかったと思う。
 また話が逸れたな。今の他言無用だぞ。喋ったら命の保障はしねぇ。分かったなら良い。んで、アフロディーテとシュラの買い物を届けに上がって行ったら磨羯宮も双魚宮も空っぽなんだよ。流石に酷くねぇか? 仕方ねぇから荷物だけ置いて巨蟹宮に帰ったら……居たのよ。誰が? 山羊と魚がだよ。緊急任務で出ていた帰りに立ち寄ったんだと。
 そこまでは良かった。なんで今日に限って人が買ってきたケーキを食ってるんだ畜生がっ!!…ってな。私達の為に買って来たんじゃないのか、んな訳あるか!! 俺様だって一人で食いたい時あるんだよ!!
…あ、喧嘩? 喧嘩はしてねえ。聖闘士は私闘は厳禁だからな。つっても皆もう覚えてねぇんじゃねえの?
 で、最初に言ってた「復讐」の話に戻る訳よ。たかがケーキ、されどケーキ。ククク…食い物の怨みは恐ろしいってこと教えてやるぜ…!

***

 …あれから復讐はどうなったか?
それがよ。いつやってやろうか考えていた時にシュラとアフロディーテがやって来てな。アフロディーテはワンホールケーキ二つ。シュラは街で買って来た色んな菓子とワイン持って「この間はごめん」って謝られたよ。びっくりした? 俺も、まさか謝られるなんて思ってなくてよ。つかバレバレだったんだなーって。不思議なことにケーキの復讐とか今までの鬱憤とかなんとかどうでも良くなってな……。我ながらクソ詰まんねえこと考えてたって気付いた。で、その後は三人で馬鹿みたいに飲んで食って騒いだ。したっけサガがえらい形相で煩いって怒鳴り込んで来てなー。危うくマジでGEX食らうとこだったぜ。ま、その変わりに拳骨食ったけど。
 何だかんだ言ってやっぱり三人でいると良いってな。いつの間にか、知らない内に大事なもんになってるんだなって思った。
 嗚呼このことも絶対誰にもうんじゃねぇぞ。言ったら最後黄泉比良坂に落としてやるからな。


――そう言って彼は嬉しそうに笑っていました。


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でっちゃんの話相手は多分カミュさん。

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