待ち人来たり 今日の巨蟹宮の主は機嫌が良いらしい。彼がどうして機嫌が良いのかは、任務で聖域を空けていたアフロディーテには分からない。しかし彼がこんなに機嫌が良いことは、久しく見たことはなかった。 キッチンを覗くとデスマスクは鼻唄混じりに夕食を作っていた。後ろ姿からは音符が見えるかの様に、鼻唄の調子は上がっていく。 「君が鼻唄なんて珍しいな。」 後ろから抱き付いてやる。何をそんなに喜ばしいことがあったのか。素直に話してくれるとは思っていないけれども。 「何かあったのかい?」 「んー? なんだろうなぁ?」 形の良い耳に一つ口付けて、デスマスクに怒られる前にアフロディーテは彼から離れていく。 「今日のメニューは?」 「魚介のパエリア。」 「シュラがいたら共食いだと笑うだろうな。」 「へっ共食い上等。…つか、もうとっくの昔に食ってるしな?」 ニヤリと薄く笑いながらデスマスクはアフロディーテへと振り返る。腰を引き寄せて、艶やかな唇に口付けを一つ。 久し振りに嗅ぐ薔薇の香気。アフロディーテの温もりと彼に触れているという感触。 「…あー。薔薇くせぇ。」 ここ数日、ずっと触れたかった。何度も何度も確かめるようにアフロディーテを抱き直す。キスも幾つも落とされる。擽ったそうにしながらもアフロディーテはデスマスクを受け入れる。 「パエリア焦げるよ?」 「もう火は止めた。」 「スープだって煮たってるし。」 「なんだよお前、俺より飯を取るのか?」 「まさか、君も君の料理も好きだから言っているのだよ。」 「俺の作る料理と俺はお前の中ではイコールな訳?」 「それこそまさかだ。…君が、一番に決まってる。」 本当、こいつには敵わないと思う。意地っ張りだけど最後はちゃんと、自分を思って欲しい言葉を言ってくれる。 「…Come la vostra passione」 デスマスクがなんて言ったかなんて、言語が違えど直ぐに分かる。デスマスクは直ぐに母国語に逃げるから余計に解りやすいのだ。 「自惚れても良いかな。」 君に愛されていることを。幸福だとアフロディーテは優しく微笑む。 ―――――――――――― 最近蟹魚はどんどん甘くなりますね← |