ユニオン・ジャック

「……これは、また…。」
 首筋に着けられた鬱血痕を辿る白い指先。これが一つや二つなら可愛いものだが、鏡に映る自身の身体…首筋に始まり鎖骨にまた一つ。寝間着を脱いだ胸元にも点々と着けられていた。
「歯形が無いだけましか…。」
 キスマークよりあちらのほうが質が悪いので、余り着けて欲しくは無い。しかし興が乗った時にたまにだが着けられるのだ。ギリギリ痛くない様に、薄くしかし確かに着けられる。本当に質が悪い。
「…朝から随分良い格好してるじゃねぇか?」
 アフロディーテの白い肌に、日に焼けたデスマスクの腕が絡み付いて抱き締められた。くるりと巻いた髪の毛に顔を埋められて、深く息を吸われて匂いを嗅がれる。肺一杯に充満する嗅ぎなれた毒薔薇の香気。
「あー…やっぱお前薔薇臭ぇわ…。」
「嫌ならば離せ。」
「嫌だ。つか嫌だったらこうしてねぇし。」
 アフロディーテの香りと染み付いた薔薇の匂いをデスマスクは堪能する。自分を魅了して止まぬ香りに暫し酔いしれていたかと思いきや、やがて背中にあった温もりが離れていった。鏡ごしでも良く見れなかったデスマスクの顔が漸く見れた。
「ふ…不細工な顔してる。」
「うるせぇよ、誰かさんがもっとって強請るからなあ…お陰で寝られなかったんだ仕方無えだろう?」
「そうか…だったら今後君の睡眠を優先させる為に、君との夜の時間を減らさなければならないな。」
「それはそれで困るな。」
 垂れ落ちる前髪を後ろに撫で付けてやりながら、アフロディーテは静かに艶やかな唇をデスマスクの唇に重ねる。可愛らしいリップ音が鳴ってアフロディーテはデスマスクから離れていく。
「ふふ、良い男にな……んっ…。」
 今度はデスマスクから噛み付く様に口付けられた。舌を絡め取られて深く吸い上げられる。隙間から漏れるのは濡れた吐息と混ざりあった唾液。離れていく二人の間を、名残惜しいと唾液の糸が二人を繋ぐ。
「へへっ、良い顔してるぜアフロディーテ?」
「…馬鹿…そんなことされると…。」
「欲しくて堪らないってか?…良いぜ、くれてやるよ。幾らでも何度でもな…?」
「…でも。」
「どうせお前も非番だろ? 良いじゃねえか、たまには一日中ベッドの中っていうのもよ?」
「しかしだな…。」
「あーもう煮え切らない奴だな!良いから来いって!」
「うおっ、わ、ちょっ、デスマスク!?」
 ぱっと刹那の瞬間消えたデスマスクに、アフロディーテはあっという間に肩に担がれると、寝室に連れて行かれる。
 降ろされたベッドはまだ人の温もりが残ったままだ。そしてこれはつい数時間前の行為を嫌でも思い出されて、アフロディーテの頬は熱くなる。身体に熱が堪るのも時間の問題だろう。目の前の蟹はもう情欲の炎が灯って仕方無いと、熱の籠った瞳で見詰められる。

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蟹魚えろす。

ユニオン・ジャックのカクテル言葉は「誘惑と戸惑い」


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