スクリュー・ドライバー

 庭園の管理もそこそこにアフロディーテは、夕焼けの紅に映える磨羯宮に足を運ぶ。
「…静かだな。」
 自分が磨羯宮の居住スペースに入る時に、いつもシュラは出迎えてくれるのだが今日はそれがない。居ないのか?とも思い、小宇宙を探るがちゃんと彼は磨羯宮の中にいる。風呂にでも入っているのだろうか。長い付き合い故に、シュラが湯を頂くにはまだ早い時間だ。ならば他に何かあったのか…。あれこれ考えているとあっという間にリビングに着いてしまった。
「…珍しい。」
 リビングに入るなり、シュラが出迎えなかった理由をアフロディーテは理解した。若干くたびれているソファの上。長い手足を折り畳み、まるで胎児の如く丸まってシュラは眠っていた。シエスタでもシュラは仮眠を取ることはまずない。だから彼がこうして昼寝をしている姿は、13年間を共にしたアフロディーテにとっても凄く珍しいことなのである。
 夕食に食べようと双魚宮から持ち込んだものを近くのテーブルに置いて、シュラの寝顔を覗く。穏やかな表情に人知れずアフロディーテは安堵する。
「可愛い寝顔しちゃって。」
 良く見れば若干眉間にシワが寄っているか。それでも何時かみたいな、魘されて苦しそう顔を歪ませて眠っていないだけ増しだ。
 体勢が辛くなってきたのか丸まっていたシュラが仰向けに代わる。薄く開いた、薄い唇。寝顔と相まってちょっと間抜けに見えた。ゆっくりとシュラの唇に重なるのはアフロディーテの艶やかな唇。触れるだけの優しい口付け。と、思っていたら舌が唇を舐めて、一瞬驚いて開いた咥内へ簡単に侵入を許した。更には後頭部に手が周り押さえ付けられる。これでは逃げられない。
「…びっくりしたぞ。」
「それは此方の台詞だ…馬鹿山羊。」
 散々人の咥内を貪り、キスを堪能したシュラはむくりと起きる。何処と無くご機嫌な山羊に、顔を赤くした魚は恨めしそうに睨む。

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キスされるとは思ってなかった山羊。反撃されるとは思ってなかった魚。

スクリュー・ドライバーのカクテル言葉は「油断」

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