プリン

 教皇宮での執務の合間を縫ってデスマスクは双魚宮へ風邪を引いて寝込んでいるアフロディーテの元に向かう。
 代々魚座が管理してきた魔宮薔薇は、主が病に倒れても凛とし綺麗に咲いていた。花粉を撒き散らすとか、棘が更に鋭利に突き出ているとか、特別変わった様子は見られないのは幸いである。
 いつぞやか体調を崩したアフロディーテの小宇宙に共鳴して、魔宮薔薇の花粉が舞い双魚宮の辺り一面が赤くなった時には一時聖域は騒然となった。しかしアフロディーテもそうしたくてやった訳ではない。それでもあんな光景は二度と見たくなく、そして起きないで欲しいものである。
「俺だ、入るぞ。」
 特に返事は無い。眠っているのだろう。風邪を治すにはちゃんと休む事が大事だ。このまま静かに昼食を作って戻ろうかとも思ったのだが、やはり此処は心配が身体を寝室へと向けさせた。
 もう一度声を駆けてから寝室に入る。ベッドには散らかったシアン色の巻き毛。壁側を向いているので顔が見えない。
 枕の上側に吹っ飛ばしたタオルを回収して氷水に浸ける。額に手を置いて熱を窺うとどうやら熱は下がった様で、デスマスクの口からは安堵の息が漏れた。
「…ん…デスマスク…?」
「悪い、起こしちまったな。」
 大丈夫だよと言いながら、ころん…とデスマスクのいる方向にアフロディーテは寝返りをうつ。顔色も引き始めに比べれば随分と良くなった。
「…迷惑を掛けて済まなかったね。」
「馬鹿野郎。謝るくらいならさっさと治しやがれ。」
 謝罪より何より、完治して元気になった姿を見せるほうが、看病をしてきた者としてはそちらのほうが断然嬉しい。
 冷やしたタオルを念のためにまた額に乗せて、左目の下の黒子に軽くキスをする。
「早く良くなれ。」
「…うん。」
 また眠りに落ちたアフロディーテの毛布をかけ直して、デスマスクは寝室を出ていく。昼食を用意したら教皇宮に戻って報告書を上げなければならない。
 もう少し傍にいてやりたいという思いを殺し、キッチンへと向うのだった。

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繋がっている様で繋がっていない風邪っぴきアフロちゃんの話。
アフロちゃんは食欲あるなしに関わらず風邪の時はずっと寝てそう。

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