lost child その少女は街の中央に位置する噴水の縁に座っていた。一目で大切に育てられた"お嬢様"ということが分かる。絹糸の様にサラリと揺れる金髪。抜ける様に白く柔らかそうな肌。ガラス玉の様に潤んだ青い瞳はくりくりと世話しなく景色を映す。まるでお人形さんの様だ。そう、あの少女は恐ろしい程、貌(かたち)が整い過ぎている。 神話の女神様と同じ名前で、恐ろしいくらい美しい美貌を持つ幼馴染みがいるが、その彼とこの少女は違う。 何が違うのか……。そう。あの少女からは"生"が感じられないのだ。恐らくこれは黄泉の案内人…積尸気を操る蟹座の力を持つ自分故か。現に中央を行き来する人達は、一人でいる少女を気にも止めず目的の為に歩んでいる。 (やっぱり視えてんのは俺だけか…。) 人込みをすり抜けながら蟹座の黄金聖闘士…デスマスクは少女の元に歩み寄る。 「?おじちゃん、だぁれ。」 「おじちゃんじゃねぇ、お兄さんだ。お前こそ誰なんだクソガキ?」 「クソガキじゃないもん!おじちゃんレディに対して失礼よ!」 少女はぷーっと可愛いらしく頬を膨らませてぷりぷりと怒っていた。彼女の隣に座る。やはり周りの人間には彼女が見えていないらしい。 「で、レディはこんな所で何してんだ?」 「別に。おじちゃんこそ私に何かご用?」 「…迷子がいるって聞いてな、送りに来たんだ。」 デスマスクの言葉を聞いた、少女の気配が変わった。 「おじちゃん、私を殺すの?」 「いいや殺しはしねぇ。既に死んでる奴を俺は殺せねぇし。そんな俺に出来るのは、道から外れた魂を元の道に戻すことだけだ。」 子どもの魂を葬るのは面倒だ。死んだと気付いていないことが多くて、素直に聞いてくれる事は稀だ。どうも子どもには変に気を使い過ぎる。こう言うのはさっさと送るに限る。 静かに小宇宙を高め始めたデスマスクに対し、意外にも少女は動かなかった。 「ねえ、おじちゃん。最後に私のお願い聞いてくれる?」 「お願い?まあ俺に出来る範囲なら。」 「本当に?有難うおじちゃん!」 *** 「成る程。それでデスマスクはそのレディと現世最後の観光をしているのだな。」 「とんだお姫様に目を着けられたものだなデスマスク?」 別件任務で聖域を出ていた腐れ縁のアフロディーテとシュラと合流したデスマスクは、グラード財団の息が掛かったホテルの中にいた。魚座と山羊座の二人は、余りにもデスマスクに似つかわしくない可憐な少女とのミスマッチに、笑いを堪え様として顔をにやつかせている。 「…いっそ清々しい程笑い飛ばしてくれたほうが良いんだけど?」 「いや、それだとレディに失礼だろう? なあシュラ?」 「あぁ。」 息抜けていく音聞こえないとでも思ってんのかこの野郎。そんな悪態をつくデスマスクの膝の上では少女の霊が大人しく座っていた。人相の悪いデスマスクがどんなに怖い顔で凄んでも少女が彼の膝に座っている光景は笑いを誘う。 「おじちゃん。このお姉ちゃんと目付きの悪いお兄ちゃんはだぁれ?」 「ぶふっ! 「デスマスクおま…おじちゃんっ…!!」 「うるせぇ!!」 「レディ、俺達はそのおじちゃんの…腐れ縁だ。」 「腐れ縁?」 「あぁ腐れ縁だ。」 「ふーん…じゃあお姉ちゃんも腐れ縁なの?」 「いいかいレディ?私はお姉ちゃんではなくてお兄さんなのだよ?」 「お兄ちゃん?」 「うん、お兄さん。」 「嘘は駄目よお姉ちゃん!お姉ちゃんはどう見てもお姉ちゃんじゃない!」 「えーとねレディ、だから…。」 「お姉ちゃん…!」 「くっそ駄目だっ腹痛い!」 「デスマスク、シュラ。」 「「ごめん。」」 無事にアフロディーテもシュラも少女に気に入られた様だ。 半ば巻き込まれた感が否めないが、この少女の霊を元の積尸気に返さねばデスマスクの任務は終わらない。任務は完遂して然り。三人は少女が満足するまで彼女の最後の現世観光に付き合うのだった。 後日、三人がサガに怒られたのは言うまでもない。 ―――――――――――― logに放ったものだったんですが、勿体無かったのでリサイクルしました← |