オムレツ 巨蟹宮に珍しく獅子座の小宇宙がやって来た。私室に通すなり、何か思い詰めた様な顔をしているアイオリアにデスマスクはソファへ座る様に促す。意外にも素直にストンと座ったところで、アイオリアは重々しく口を開いた。 「デスマスク…一生の頼みだ。」 「お、おう?どした?」 それだけ言うとアイオリアは口を閉ざす。彼にとって余程悩んでいるらしい。 しかし大抵"一生のお願い"というのは一生でもないし、内容がろくでもないお願い事ばかりだ。しかしそれがアイオリアだと不思議と状況は違って見える。 人の子が何かを強請る時の常套句を引っ提げて、アイオリアは何を頼みたいというのだろうか。アイオリアのあまりの雰囲気に固唾を飲んでデスマスクが見守る中、遂に沈黙は破られた。 「俺に…料理を教えてくれないかっ!?」 「…はあ?」 「…つまり?アフロディーテばっかに飯の面倒掛けてんのが嫌になったから、俺に習いに来たってか?」 コクンと、獅子はたてがみをしおらせながら頷いた。 アイオリアも料理は出来る。但し簡単で、しかもレシピがあればの話である。自分一人で食う分には困らないが、相手がいる場合は別問題だ。以前にも風邪を引きかけのアフロディーテに変わり、夕飯を作ったそうだが、あまりの出来(※アイオリア談)だったらしい。 「でもよ、アイツだって好きでやってんだろ?だったら良いじゃねぇかアイツの優しさに甘えといて。」 「それだと俺が俺を許せんのだっ!」 「男として?」 「ああ、男として!」 プライドが高い獅子座にこれ程の思いを掻き立て、そして頭を下げて料理を教えてくれと頼む……料理とは存外恐ろしいものなのかも知れない。少なくともデスマスクは恐ろしいと感じたことは一回もないが。 人に教えるなんて本当はクソ面倒臭いが、此処までアイオリアに言われたら此方も男として退くわけにはいかない。 「お前の覚悟は分かった。」 「では…。」 「言っとくが俺は厳しいぞ?」 「望むところだ、宜しく頼むデスマスク!」 「成る程。それでアイオリアは暫く、君のところに通っていたという訳か。」 宮が隣あっているとは言え、互いに交流することは少ない蟹座と獅子座の内容を知り、アフロディーテは漸く納得するに至る。 「浮気だと思った?」 「まさか、君じゃ有るまいに。」 「ひっでぇ。」 デスマスクとそんなやり取りをしながらアフロディーテの視線の先には、巨蟹宮のキッチンを借りて料理に勤しむアイオリアの姿があった。時折、料理を作るには似つかわしくない不躾な音がガシャンガシャン響くが、調理は順調な様子。それでも何処か心配そうなアフロディーテにデスマスクは言う。 「安心しろ俺様が見てやったんだ、美味いに決まってる。」 「ふふ、それもそうだな。」 料理相手に獅子奮迅するアイオリアを、アフロディーテは優しく見守っていた。 ―――――――――――― 獅子魚は可愛い話を書きたくなる。 |