アン・インテグリティー

「…なんて言うのよ〜! もう可愛いくて可愛いくて……って、あれ? ヤマト?」
 話に夢中になって気が付かなかった。隣を歩いていると思った空色の同僚は、気がつけば大分離れたところにいるではないか。
 現在カナメとヤマトは広域調査に出ている。新たなサテライト建設候補地の選定も兼ねたこの調査中、旧世代の遺物が奇跡的に喰われずに残されている高層ビル郡を発見したのだ。遺物収集癖のあるヤマトからしたらこの場所は宝の山に違いない。夢中になってあちらこちらから遺物を漁り、品定めをしながら何れを持ち帰るか悩んでいた。
「これと、これは持ち帰るとして、後は…んー…?」
「ちゃんと自分で持ち帰れる量にしなよ。」
「解ってるわよ。…という訳でカナメにはこれ持って帰って貰えると嬉しいんだけど。」
 晩御飯奢るからと楽しそうに笑っていた。ヤマトがこうなってしまっては持って帰るしかなさそうだ。カナメとしても妹の話に夢中になってしまい、ヤマトを長時間引き留めてしまったこともあるのでお相子だ。
「分かった、ただしアルコールもつけてくれると嬉しいんだけどな〜?」
「えぇ勿論。シエルに口聞いといてあげる。」
「やった……あっ!」
 砕けたガラス窓の向こうにカナメは動く影を見た。アラガミである。
ヤマトが即座にユーバーセンスを展開させ、位置情報と他のアラガミも捜索し無線で近くのサテライト拠点に駐在するオペレーターに報告を上げる。
「こちらクレイドル隊員皇です。サテライト拠点選定中にアラガミを確認。」
「"了解しました。皇大尉がいらっしゃる場所にレーダーは存在しない為、こちらからはオペレート出来ませんが…。"」
「二人いるし大丈夫よ。それにイレギュラーには慣れてるから。距離は空いているけど念のために住人達を避難させて頂戴。」
「"承知しました。ご武運を。"」
 通信機を切り外の様子を伺う。どうやら地面から湧いて出た訳ではないらしい。恐らくは大陸を渡ってきた個体だろう。通常のそれより体躯が大きく、纏う雰囲気もどこか違い思わず気圧される。周りに集まる小型アラガミも恐らくはこの強い個体に恐れてそれで侍っているのだろう。
「ヤマト。」
「うん?」
「大丈夫。一人じゃないでしょ。」
 そう言ってカナメはにかっと笑った。そうだ。私は一人ではない。今隣には心強い仲間がいる。
「作戦はどうする?」
「多分小型が先鋒としてくるでしょうね。セオリー通り小型を殲滅した後、あのでかいやつ…スパルタカスを討つ。」
「了ー解。それじゃあ援護射撃は任せるよ。」
「言うと思った。」
 ヤマトはヴァリアントサイズからスナイパーへと形態を変え、カナメはロングブレードを構え直す。
 カナメの射撃の腕は最初の時と比べれば上がってきている。実戦に出てもソロの時ならば問題はない。そう、ソロならばの話だ。チームを組むとなると何故か彼女は味方に誤射をして仕舞うのだ。
恐らくは他の神機使いの動きを先読みするのが苦手なのだろう。射撃ともなれば相応の集中力が必要になる。慣れない内は目標だけに目が行きがちになり、視野が狭まり周りが良く見えなくなる。かつての自分がそうであった様に。
「ねぇカナメ、今度射撃訓練があったら教えて頂戴。」
「ぅえっ射撃訓練っ!? き、急にまたどうして?」
「教えるからに決まってるでしょ?」
「え、本当? ヤマトに見て貰えるなら嬉しいし、寧ろ願ったり叶ったり…みたいな。あぁでもヤマトの訓練キツかったってココロが言ってたよーな…?」
「じゃあフレイアのほうが良い?」
「いえ、是非とも皇大尉で宜しくお願いします。」
 ヤマトより射撃教練が厳しいことで有名な佳人を出されては堪らない。綺麗にお辞儀をするカナメの頭を上げさせると同時に、周囲を偵察していたザイゴートと窓越しに目が、あった。
 刹那、ガラスが砕ける音。ザイゴートの断末魔。堕ちる天使を見たアラガミ達は咆哮する。
「ビルの中じゃ不利だわ。下りるわよ。」
「うん!…て、何処から?」
「そんなの決まってるでしょ!」
 今しがたヤマトがスナイパーでぶち抜いた窓から蒼の戦姫は勢い良く飛び出して行った。
「嘘ぉ…。なんて、言ってる場合じゃないか…!」
 咆哮が響いたお陰で耳が良い小型のアラガミが此方に押し寄せている。距離はあるとはいえ、自分達を抜かれれば後ろにはたくさんの人達がいるのだ。怖じ気づいている暇はない。カナメも意を決し窓から飛び下りた。
 落下している最中でもアラガミは容赦無い。大きく口を開けて遅いくるザイゴートを切り伏せながら、その内の一体を足場に衝撃を殺し地面に着地する。
先にヤマトが下りてアラガミを討伐してくれたお陰でここまではスムーズに作戦が進んでいる。
「ここからは私が行くよ。」
 ヤマトが背中を守ってくれている以上、目の前の障害は一匹足りとも逃す訳にはいかない。後ろに控えるスパルタカスへの道を開きながら、一体また一体と切り、コアを回収していく。アラガミを薙ぐ度に紫光の煌めきがカナメを包み、彼女の動きを更に向上させる。ブラッドアーツ・吸命刃がアラガミより奪った体力をカナメは自らの力に変え刃を振るい続ける。
「見えたっ! ヤマトッ!」
「オーケー!」
 スパルタカスへの道が開けた。銃撃で牽制をいれつつ、ヤマトとカナメはスパルタカスとの距離を詰める。先に小型アラガミを討伐したのが幸を制した様だ。オラクル強化がなければ存分に此方に優位がある。
「はああああああっ!!」
 弾幕後、不意に現れたカナメの剣がスパルタカスの左腕を落とす。そして再度不意に、目の前に現れたヤマトに一瞬スパルタカスの動きが止まった。
「――終わりよ。」
 鈴の音が鳴り響く中、蒼のヴァリアントサイズは紅くオーラを纏いスパルタカスの首を狩りとる。
 地に臥した神とは対象的に、二人の神を喰らう者は手を高く掲げ合った。

――――――――――――

吉乃さんお待たせ致しました…!
リクエストのヤマトとカナメちゃんで共闘、背中を預けあう戦友という感じで書いてみました。ブラッドアーツのコレジャナイ感が凄まじいですが、なんと言いますか雰囲気が上手く伝われば幸いです←
この後二人は飲み明かすんだろうなぁ(笑)

吉乃さんもお忙しいとは思いますが、どうかご無理はなさいませぬ様に。お体にはお気をつけてお過ごし下さい。
企画に参加して頂き有難う御座いました。

※お持ち帰りは吉乃さんのみどうぞ。


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