金蝕

 一枚の紙に記された文字。遂にこの日がきたのかと、ヤマトはラウンジのソファに腰掛けながら思っていた。
「…辞令?」
「あら、盗み読みなんて良い趣味してるじゃない?」
「良く言うよー。此れ見よがしにテーブルに置いてる癖に。」
 今朝ヤマトが受け取った書類は"辞令"だ。クレイドルに籍を移した際、並行して研究員としても動いてきた。その研究の賜物としてある研究論文が本部の人間に評価されたのはヤマトにもツバサにも記憶に新しい。
「姉さんが研究員として本部に、か…。」
 行くの?と問い掛ける妹分に、さあとヤマトは肩を竦める。
「辞令なのに?」
「辞令だけどもしあれなら断っても良いってサカキ博士が言ってた。」
 君も良い歳になってきたし、もう一つのことも心配しなければ為らないからとも。
「でも良い歳は余計よねー。」
「ねえもう一つのって。」
「ええ、出たわよ。」
 ヤマトが更にもう一枚、テーブルに出した書類にはこう記されていた。
「引退勧告。」
 昔に比べれば神機使いの活動寿命は確実に延びている。しかし三十代の壁は厚く、生き延びてきた神機使いの大半は三十歳を前に引退しているのだ。
 それに加えてヤマトにはあることにも懸念があった。
「…また侵食、進んだんじゃない。」
 そう?と当の本人はあっけらかんとしていたが、ヤマトの主治医として彼女を見てきたツバサには、日々オラクル細胞がヤマトの身体を蝕んでいるのが良く解っていた。空を写し取ったスカイブルーの髪は毛先から上半分以上侵食により金色に変わり、つい最近までは何ともなかったセルリアンブルーの瞳も、左側が完全に金色になっていた。
「あともう少しだけ神機使いをやったら…ね。」
「なら約束して。」
「約束?」
「次の誕生日……来年31歳の誕生日を迎えるまでに神機使いを引退するって。」
 云わばこれはタイムリミット。ヤマトが治療も無しに"人"でいられる時間だ。ツバサ的にはかなり妥協した案だった。
 医者としての観点からすれば今すぐにでも姉さんには引退して欲しい。いや医者云々の前に一人の人として、大切な姉分には穏やかな余生を送って欲しいのだ。
それはきっとサカキ博士も、アナグラにいる仲間も同じだから。
「…解ったわ。」
「お願いだから、無茶しないで。」
「そういうツバサもね。」
 そう。ツバサにも引退する時が迫っている。明日は我が身だ。
 時間はある様で無いのだと、二人の神機使いは改めて自覚する。

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あるかも知れない未来のお話。

侵食率が高まると金色になる云々はGEAからです。ロマン。
そう言えばレイジバーストも人を保ったままで入られる状態が金色でしたね。


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