"彼岸の女王"

 黎明の亡都にてプリティヴィー・マータが確認されたと、偵察班から連絡があった。
 亡都の捨て去られた図書館から幾つかの図書を回収したい……という人物の依頼を受けて、ルカが偶々訪れていた場所でもある。不幸か幸いか……女王は高台から飛び下りて直ぐの旧世代の遺物を喰っており、図書館に潜むルカには気付いていない。
 回収した本を近くの本棚に纏めて仕舞う。依頼主に渡す前に破けたりしてしまっては大変だ。
「さて、と…。」
 黒のカラーリングで統一された自身の神機を握り直す。と、通信機から僅かなノイズと共にオペレーターであるヒバリの声が聞こえてきた。
「"ルカさん聞こえますか?"」
「"えぇ。少しノイズが酷いけれど、問題ありませんわ。"」
「"出来る限りサポートします。お一人の任務……どうぞお気をつけて。"」
「さあ参りますわよ…!」

 ヤタガラスのスナイパーサイトを覗きこむ。女王の肩に狙いを定めると、ルカは迷うことなくその引き金を引いた。
 突然の攻撃に驚くのはアラガミとて同じ……ルカの存在に漸く気付いた女王は、猛々しい咆哮を上げる。……と、地中からコクーンメイデンが現れた。属性は女王と同じ氷属性である。
「"コクーンメイデン二体確認!遠距離からの砲撃に注意して下さい!"」
「下役はお下がりなさい!」
 スナイパーから放たれるレーザーは光の尾を引きながら、コクーンメイデンを貫く。横にロールして女王の飛び掛かり攻撃を躱し、もう一対のコクーンメイデンも始末して行く。
 無駄のない洗練された動きは、まるで彼女が趣味で踊っているホールルームダンスの様だ。小刻みにステップを踏みながら、接近する女王の攻撃を躱し、隙をついて女王の青白い身体にショートブレードで一つ、また一つと傷を付ける。
 段々と女王の動きが鈍くなる。跛行していくこの状況が女王には理解出来ているだろうか。降り下ろされた女王の爪に勢いは無く、ルカはそれをいとも簡単に避けたと思いきや、直ぐに身体を捻りショートブレードで女王の肩を砕いた。
「"プリティヴィー・マータダウン!これで決めて下さい!"」
 ヒバリの声の後、地に伏せる女王。
「…それでは、ごきげんよう。」

「"目標アラガミの討伐を確認。お疲れ様でしたルカさん。"」
「いい汗が掛けましたわ。」
「"回収班の到着を確認しました、ルカさんはそのまま帰投して下さって大丈夫ですよ。"」
「了解よ。」
 直ぐ様ルカの元へ回収班が走ってきていた。
「後は宜しくお願いしますわ。」
「はい。」
 ルカとすれ違った回収班の青年が喉をひきつらせたことをルカは知らない。青年ら回収班が見たプリティヴィー・マータの姿は、実に無惨なものだった。
顔から斬り込んだのだろうか、プリティヴィー・マータの身体は真っ二つに横たわっていた。オラクル細胞の指令核であるコアが露出するまで。
「あんな綺麗な人が…こんなやり方したっていうのか…?」
「じ、実は…恐い人だったり?」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと回収するぞ。」


「人は見掛けて判断しては、いけませんわよ…?」
「今何か?」
「いいえ。アナグラまで宜しくお願いしますわ。」




貴族社会もろくなもんじゃないゆえに、存外ルカもえぐいという話。


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