"冷暗の佳人"

 緊急任務を請け負った青年は一人、極東支部最終防衛ラインである"創痕の防壁"に降り立つ。
「こちらフレイア。ヤクシャ・ラージャを三体確認。」
 オペレーターに報告しながらフレイアはユーバーセンスを拡げる。同エリア内にはカバラ・カバラの反応もあった。幸いヤクシャ・ラージャ達とは距離が空いている。しかし油断すれば合流を許してしまい四体同時に相手をしなければならなくなる。ソロ故にそれだけは避けなければならない。
「一体ずつ確実に沈めるか…。」
 神機を銃形態に変形させるとフレイアはステルスフィールドを展開させた。ヤクシャ・ラージャはA地点に三体がそのまま残り、旧世代の遺物を喰っている。暴れる前の腹ごしらえだろうか。三体が三体とも食事に夢中だ。
「…まあ、此方にとっては好都合だがな。」
 フレイアはなんの躊躇いも無くヤクシャ・ラージャの頭部へ向けて引き金を引いた。一体目が耳障りな断末魔を上げながら地に伏せる。直ぐ近くで遺物を喰らっていた二体目の足を撃ち、牽制をいれたら素早く頭部を撃ち抜く。
 三体目が漸くフレイアの存在に気付き攻撃を行おうと走って来る。しかしフレイアはその場から動かずにヤクシャ・ラージャに引き金を引き続けた。
「"間も無くカバラ・カバラがA地点に侵入します。"」
「問題ない。アラガミはこれ以上攻めて来ないか?」
「"はい。各方面で神機使いの皆さんが順調に討伐していますので。"」
「ならば結構だ。」
 三体目のヤクシャ・ラージャを沈める。直ぐ様カバラ・カバラが珍妙な舞を舞いながらA地点に合流。フレイアを確認すると舞を止め、歯を見せてニタリと笑った。
「不愉快だ。」
 心底うんざりした様子のフレイアは、一切の容赦無くカバラ・カバラへ弾丸の雨を降らす。

―――――……。

「相変わらず怖ぇ顔してんな。」
 任務を終えて神機を整備士に確認していたフレイアの元にやって来たのはシエルだ。ゴツゴツと軍用ブーツを鳴らして、フレイアの横に立つ。彼等の神機は偶々隣であった。
「顔についてとやかく言われる筋合いはない。」
「表情が怖ぇっつってんだ。それも無意味にな。」
「…言っている意味が分からないが。」
「そのまんまの意味だ。」
 神機のロックが外れる音と、神機をロックする音が保管庫に同時に響く。
「たまにはカイトみたく笑ってみろ。」
「馬鹿笑いをしろと?」
「そうだな。怖い顔されるより馬鹿が付いても良いから笑ってろ。」
 そっちのほうがお前には似合うぜ…と、シエルは神機保管庫を後にする。
「…意味が分からん。」



フレイアは笑いません。作り笑いと鼻で笑うことがあっても心から笑うことが出来ません。


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