"蒼の戦姫"

 夏の風が地面に薄っぺらく被っていた砂塵を巻き上げる。一度だけ大きく吹き抜けていった風に目を細めた。砂が目に入っては今回の任務を達成することが出来ないからだ。
 一人の少女が真っ直ぐに前を見詰めていた。紅葉の様に小さい手に思わず力が入る。少女の手の大きさに似合わないくらいの大きな武器――神機が、僅かに軋む音がした。
瓦礫を背にして、そうっと……少女が向こう側を盗み見る。少女が見詰める先には大きな身体を揺らしながら、目の前の遺物を一心不乱に貪り喰らう動物――アラガミがいた。
 意を決した様に少女は物陰から飛び出る。旧時代の遺物を捕食するアラガミから、ギリギリ感知されない死角に回り込む。腕輪から信号を受け取った神機から、黒い触手が獣の様な形状になる。神機が捕食形態(プレデターフォーム)に変型すると、一気にアラガミの太く逞しい脚に喰らい付いた。
不意を付かれたアラガミは僅かによろけた。楽しい食事を邪魔されて気分が良くなるものなどいないだろう。アラガミ――ヴァジュラは脚に喰らい付いた者のほうへ振り返る。空気を切り裂く様な、耳に痛い雄叫びが辺り一面に響き渡った。
 少女は吠えるアラガミに向かい、不敵な笑みを浮かべた。先程のヴァジュラのオラクル細胞を捕食したことにより、バーストモードになった為である。華奢な身体に淡く白く輝く光が纏う。
「覚悟しなさい。」
バーストにより身体能力が上昇した少女は彗星の如く。ショートブレードで的確に結合破壊が可能な部位を斬る。かと思いきや銃形態(ガンフォーム)に変型させ、高威力のバレットを撃ち込みヴァジュラからの反撃や勢いを削ぐ。しかしこれで引き下がるならば、アラガミは人類最大の敵とはならなかっただろう。
 空気中の静電気が集まりバチバチと目で確認出来るくらいにまで膨れ上がる。勿論少女が起こしたことではない。ヴァジュラである。ヴァジュラの巨体の回りには体内から造り出した紫電に静電気がプラスされた球体が出来る。それを少女に向かい勢い良く放つ。回避不能と判断した少女は装甲を展開し紫電球体を受け止める。バックラーは装甲の中でも小型であるため、受け止めた際に手が痺れ少し体力を持っていかれる。
しかし止まってはいられない。アラガミは必ず討伐しなければならない。
「これで、終わりよ!!」
一陣の風の如く少女が握り締める蒼いショートブレードが閃きヴァジュラの頭部を捉えた。


 目の前には活動を停止したヴァジュラが横たわっていた。息つく間もなく、少女は再び捕食形態に変型させるとヴァジュラへと牙を立てる。アラガミのコアの回収……これは神機使い――ゴッドイーターである自分達の大切な仕事の一つである。
「"ヴァジュラの討伐を確認しました。向かえのヘリが来るまで注意して下さいね。"」
「……こちらヤマト、了解したわ。」
ヤマトと名乗った少女は空を見上げた。任務が終わったあとに感じる風は、なんて心地好いのだろうか。
「あ、余りぼんやりもしてらんないわね。」
思い出した様にヤマトは、先程ヴァジュラが捕食していた遺物がある場所まで戻り使えそうな遺物を回収していく。これは個人的に行っていることで、だからといって趣味とは違う。尊敬する父親の研究に少しでも役に立てればと思ってやっていることである。
「……よし、こんなもんかな?」
粗方使えそうな遺物を回収する。少し遠くでヘリのプロペラの音が聞こえ、ヤマトは慌てて広場へと走って行った。
世界が荒廃してからも人は、生きている。
ゴッドイーターは今日もまた、神を喰らっている。


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