"銀餓狼" 「今日は、宜しくお願いします。」 「おう。」 青天白日。雲一つない青空の元、うやうやしくシエルに接するのはブラッド隊隊長のアキラだ。 案の定そんな堅苦しくなくて良い、とシエルに言われてしまった。 いつも通り…と言われても中々難しい。何故ならアキラにとってシエルとは初めての任務だからだ。ラウンジ等で良く一緒に食事をしたりビリヤードをしたり、任務のことや神機使いとしての話をしたりする程ほどに仲は良い。 しかし前述の通りアキラはシエル…もとい第七部隊の神機使いとは一緒に任務に出撃していない。 ブラッド隊や第一部隊が"表"で闘っている際、決して明るみに出ない"裏側"で第七部隊は粛粛と任務をこなしてきたのだ。 「ん?安心しろ伊達に三年も神機使いやってねぇよ。」 「いや!そういうことじゃなくて…!」 アキラが思ったこと……何故シエル・ウィオルックは第一部隊から"第七部隊"という存在しない部隊で闘うことを選んだのか、ということ。 「"討伐目標確認。可及的速やかに排除せよ。"」 「おーおー…セッカらしいそっけねぇオペレートだこと…。」 「"煩い。良いからさっさと討伐目標を殲滅しろ。"」 必要最低限の連絡事項を述べるとセッカの声は聞こえなくなった。 「シエル先輩とセッカ先輩って…。」 「んー?」 「仲、良いんですよね?」 「ああ仲良いぜ?さあて、また小言喰らう前にさっさと行くか…!」 「…はい!」 青天に映える赤い鎧に身を包んだ蠍の騎士…ボルグ・カムランの堕天種が今日の討伐目標である。ファーストコンタクト故比較的難易度が低い任務であるが、油断は禁物だ。 「作戦は任せるぜ。隊長さん?」 「私は陽動で、先輩は盾や破砕効果が認められる箇所へ攻撃をお願いします。」 「良いぜ。お互いに尻尾の広域攻撃には気を付けようや。」 そう言うとシエルはニカッと笑った。なんて頼もしい表情だろう。三年のキャリアだけじゃない…幾多の難関任務を越えてきた自信だろうか、初めて一緒に任務に赴いたというのに、この人になら背中を預けても良いとすら思えた。 *** アキラは先程感じたことを素直にシエルに聞いてみることにした。 「どうして第七部隊で闘うことを選んだんですか?」 ボルグ・カムラン堕天種のコアを捕食回収していたシエルは、回収し終えたコアを確認しながらゆっくりとアキラに向き直る。 「あの時も言ったろ?表舞台で戦うのは向いてねぇって。」 「普通に防衛班としてじゃ…駄目だったんですか?」 「駄目じゃねぇけど……こっちで戦うほうがもっと役に立てるんじゃねぇかなと思った。」 だから裏方に回ることにした、そう言うとシエルは青空を見上げる。秋になり風は冷たくなってきた。そんな風にシエルとアキラの髪の毛は弄ばれる。 「護りたいんだよ。」 「はい?」 「アイツが帰ってくるこの場所を。」 「コウタさんも、同じこと言ってました。」 親友が帰ってくるこの場所をいつまでも守っていたいのだと。 「ああ…同じだ。だけどコウタと俺のじゃ、少し違うんだけどな。」 何が、とはアキラは問わなかった。いや問えなかった。シエルのこの顔を見て、アキラはコウタの友愛以上の感情をシエルがもっているのだと……分かってしまったから。 「クレイドルに勧誘されて断ったのもそれが理由ですか?」 「…あぁ。」 シエルは空を仰ぐ。 此処には自分の大事なものも、人も沢山いる。だから彼女が……ヤマトが愛していた極東というこの場所を護ることこそ、自分が神機を振るう理由だ。 「…あー…自分語りなんてらしくもねぇな。」 お前は聞き上手なんだな。とシエルは照れを誤魔化すようにスレートグレイの髪の毛を掻き回した。 「先輩ね貴重な一面が見れて嬉しい限りです。」 「茶化すなよ。あと、これは皆に内緒な?」 「はい、勿論言いませんよ。」 「頼むぜ?」 *** 「お疲れ様っす。」 アナグラに戻ると、リアンに出迎えられた。先日よりオペレーターに転属してからは彼もそこそこ忙しそうにしている様だ。 「こことここチェックして、ここにサインが欲しいっす。」 「了解。」 アキラに確認して貰いたい書類にチェックを入れサインを記す。 「有難うっす。あっセッカ先輩から今日はここまでって言ってたっすよ。」 それだけ言うとリアンは足早に事務へと区画用エレベーターに駆け込んで行った。 「事務処理ってことは……ホムラか。」 「あれでリアン、ホムラ教官と結構仲良いんですよ。」 「へぇ……あのホムラとねぇ…。」 リアンがホムラに懐いたのは、ホムラの神機のアサルトパーツを譲り受けてからだという。 生憎ホムラが事務に専念する様になってから彼の元には行っていない。大体のことを代理であるセッカがしてしまうから…というのもあるが。 「うっし、今日はお疲れさんなラウンジで飯でも食うか?」 「はい、ご一緒させて下さい。あっシエル先輩後でビリヤードに付き合って貰えませんか?」 「ああ、良いぜ。」 二人は食事を平らげたあと、夜になるまでビリヤードを楽しんだ。 ← |