鏡の中の僕から見た、僕は如何でしょうか

 大宮孤児院。親兄弟を亡くし天涯孤独となった子ども達を保護し養育する施設である。
 母体となった大宮一家は旧世代にて、極道と呼ばれており裏社会にて名を馳せていたところである。しかしアラガミが跋扈する世界では、人の肩書きなどアラガミの前では無意味であり、裏社会の名声など何の役にも立たなかった。
 だったらせめてもの罪滅ぼしとばかりに、大宮一家十三代目当主…大宮シゲユキは孤児院を開設したのだった。始めたばかりの頃は極道が子どもをロクに育てられる筈もないと、一部の輩から批判されていたが、それぐらいで止めるならば最初から始めていない…とシゲユキは笑い飛ばしたそうだ。
 精神的ショックから話すことが出来ない子や、他にも色々な病気や、家の事情で売られた子どもなどシゲユキはどんな事情の子どもも出来るだけ保護をして育てていった。

 そんな折……アラガミが孤児院の目と鼻の先に位置する外部居住区に侵入してきた。家屋は破壊され、一般人も何人か襲われ……喰われたという。
 シゲユキはいても立ってもいられず、数人の舎弟を連れ立って救援に向かった。
見るも無惨な状況だった。火事も起きたお陰で焦げ臭く、息をするのも苦しい程。怪我人を何人か助けていた時、シゲユキの目に一人の少年が目に留まった。
「怪我ぁしてねぇか坊主?」
 少年はシゲユキの問い掛けに答えなかった。少年はただひたすら下を見ていた。
「おい坊主大丈夫か?……っ!?」
 シゲユキはそっと少年を覗き込んだ。思わずぎょっとしてしまう。少年が座っていた場所から少しもしないところには、人間の腕があった。恐らく……いや、考えるまでもなくこの少年の肉親であろう。そして、その人はアラガミに喰われたのだろう。傷口からは未だに血が流れていた。
「ママ…アラガミに食べられちゃった…。」
「…坊主の父ちゃんは?」
「パパも…食べらた…。」


 " 僕のせいで… "


「僕のせいだ…!!僕がわがまま言わなかったらっ!!僕がちゃんとパパとママの言うこと聞いてたら!!アラガミに食べられることも無かったんだッ!!僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ!!」


 " 僕が、パパとママを殺したんだッ!! "


「うぁ…あ、あああああああああああああああああああああ!!!!!」
「…悪いな坊主。」
 錯乱状態に陥った少年の首元にシゲユキは手刀を食らわせた。糸が切れた人形の様に、少年は簡単に意識を手放しその場に倒れ込む。シゲユキは少年を抱き抱えると、少年が叫んでいた言葉を繰り返した。
「"僕のせい"か……。」
 こんな年端もいかぬ幼い子が自分のせいだと自責の念にかられる程だ、余程良い親だったのだろう。
 少年の親を悪く言うつもりはないが、子どもを守る為とは言え自らが死んでは元も子もない。親とて悲しませたくなかった筈なのに。
「つくづく…くそったれな世界になっちまったなぁ、おい。


―――――……。


「親父ー?…親父…って寝てんのか…。」
 珍しい光景だ。シゲユキがうたた寝をしているところを始めて見た気がする。昔気質で子どもらの前でもこんな隙だらけで眠っているところは、昔の記憶を辿っても思い出せない。
 ふと、過去の記憶が甦る。始めて大宮孤児院に来たときのことを。
 両親が死んだのは自分の責任じゃない、だから自分を責めるな、そう言われたことを覚えている。
 幼いながらもこの言葉に救われていた。自分のせいじゃなかったアラガミのせいなんだと、仕方がなかったことだと自分を正当化して立ち直った。事実自分の我が儘で二人を死なせたことには変わり無いのだが……親父とチヅルさんからこう言われてなかったら、今頃自分はこの様に生きていなかったであろう。
しかし今この時でも、両親を死なせた罪の意識に苛まれている。あの時ああしていなかったら、こう言うことを言わなかったら……と。後悔しても後悔しきれない。
 自分は未だに両親への贖罪を果たせないでいる。
「…このままだと風邪引いちまうな。」
 それとチヅルさんには寝てたと伝えておかなければ…。
「…感謝してるよ親父には。」
 自分の今があるのは、親父のお陰だから。面と向かっては言えない臆病な自分で…ごめん。
 毛布を取りにいったシエルの背中を、シゲユキは静かに見詰めていた。
「…馬鹿野郎が。」
 何度も言わせんな。お前は悪くないんだよ。


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