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 追記

 背の低い白い樹木の青い中心部分が白く輝き出す。一際明るいその光は薄暗い地下の岩肌を照らし、影に潜むもの達はより暗闇の方へと身を潜めていく。ヤドリギの発光が収まったのとほぼ同時に、小さな赤い粒子が集まり人の形を成していく。一人の吸血鬼がその場にゆっくりと立ち上がった。周りを警戒するが、障気を晴らすヤドリギの周りに堕鬼がいることの方が珍しい。
「先行は……していないようだな」
 だとしたら自分が先に着いてしまった様だ。ちらりとヤドリギを見るが、常の輝きを保ち新たな来訪者を告げる光はない。だとするならば適当に時間を潰して今回のバディが来るのを待とう。ヤドリギの側にある手頃な岩に腰を下ろし、この間久しぶりに手に入れた嗜好品チョコレートを一つ左の頬袋に入れる。こうすると長い時間味わってられるからだ。本当はこういうものを食べても意味はないのだが、吸血鬼だって美味しいものは食べてたいもの。一昔前…吸血鬼になるずっと前はごりごり噛んで食べてた気がするが、今の時代でとんでもなく貴重品になってしまった。同じ吸血鬼で行商人のシャンと物々交換をすれば手に入るが、チョコレートばかり交換出来ないし、そもそも彼が欲している物資もこれまたなかなか見つからない貴重な代物だ。頬袋からじんわり甘さが広がってきたところで、ルイから貰った本を取り出しページを捲る。小説だ。活字を追うのは嫌いではない。こういう没入感は好きなほうだ。

「ごめんなさい、遅くなった」
 暫くすると、先程自分がやってきたのと同じく、ヤドリギを目印にやってきたのが今回のバディ……アティである。自分が身を置く拠点とは違い、彼女はとある保護区にて血涙の探索確保等をしているという。
「気にするな、私も今来たところだ」
「おぉ…かっこいいこの間見た漫画みたい」
 アティと初めましてを交わしたのは旧市街地だったか。お互い探索中にたまたま出会い、その場に現れた堕鬼を倒したのが交流するきっかけ。それからこうして時折連絡を取り合い、血涙や大崩壊前の遺物の捜索などする仲になった。保護区での生活や色んな話を聞いたりするのは勉強になるし、相談されたことや頼み事は出来る限り答えたい。
彼女だけではないが掛け値無しにこれだけするのには勿論訳がある。なにせ私にはクイーン戦前の、大崩壊する以前の記憶が殆どない。覚えていることと言えば学校に通っていた…という漠然としたものくらいだ。家族や友人の類いの記憶はない。だから、もしかしたら自分の血英が見つかるかもしれない……そんな淡い期待を抱いてアティの様な吸血鬼と探索するのだ。見つからなかったとしても今の生活が壊れる訳でもないので困ることはない。それよりか、自分のよりもスイの血英が見つかれば、とは思っている。
 単行本を仕舞い立ち上がる。得物を手にアティへ向き直る。
「さて、と。ここは最近見つかった場所らしくてな、不明瞭な点も多い。お互いに気を付けて行こうか」
「うん」
 互いに自分の得物を手に、濡れた空気が吹いてくる方へ。彼方から聞こえる咆哮の主へ。
 次は見つかるだろうか。



2020/03/20 (23:31)


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