Loka-Purusha


お日さま園に帰宅すると、俺は大抵部屋にカバンだけ置いて、すぐにテレビの部屋に行く。
見たいものがあるからというわけじゃなくて、帰ってからすぐに宿題、予習復習なんて全く楽しくないからだ。

だけど、今日のテレビ部屋はとても騒がしかった。
そういえば、小学生の間で大流行しているアニメの、短期集中放送があるということを誰かに聞いていた気がする。
うるさいのはあまり好きじゃないけれど、いつもどおりの休憩ができないというくらいで怒るほどの小さな子供でもない。
場所とり合戦を始めているチビどもを横目に部屋を出て、俺はぶらぶらと調理場へ向かった。

夕飯は当番制だけど、たまに昔の卒園生だという人たちがやってきて作ることがある。
その内の一人に、玲名さんという女の人がいて、ここ二週間くらい、毎日のように夕飯を作りに来ている。
良く知らないが、同居人にご飯を作りたくないとかそういう理由だったと思う。大人にも色々あるんだろう。
そして、その玲名さんに絡むのが、最近の俺のブームだ。

ちなみに、二、三ヶ月前までは、南雲さんとバトエンをやるのにハマっていた。
南雲さんは勝負に負けそうになるとお菓子で懐柔しようとしてくるのが結構良かった。
けれど、玲名さんの側にいると勝負がなくても、お菓子はもらえる。手作りの、かりんとうとか白玉とか、そういうダサいやつばかりだけど。
味に不満があるわけじゃないから、その程度なら、まあ我慢できる。

玲名さんは俺を見るなり、「何か食べたいのか」と聞いた。
底の深いフライパンが、じゅうじゅう言っている。
跳ねる油が危なくて、俺は少しだけ身を引いた。

「何があるんですか。それは夕飯?」
「芋の天麩羅と、掻揚げ。お菓子ならそうだな…かりんとうだな、それなら作ってやってもいい」
「またかりんとうっすか…じゃあ、それでいいや」
玲名さんは「仕方のないやつだな」と楽しそうに笑って新しいフライパンに油を引いた。

「糖分をこんなふうにたくさん摂取するのは、体には良くないんだからな」
「でも、玲名さんがくれるんでしょう」
「ああ、だからみんなには秘密だぞ」
玲名さんはそう言って、いたずらっぽい笑みを浮かべた。俺は白くて大きな皿の上にキッチンペーパーを引いて、少しだけ手伝いをする。

調理台からボウルや包丁を片付けて、少し離れた部屋にしまわれている調理場専用の椅子を俺の分と玲名さんの分と二つ持ってくると、ちょうど頃合いのようだった。
甘くていいにおいがする。多分、今日のやつもいつものやつと同じくらいに、割と美味しいのだろう。

それから玲名さんは、特別だと言って、オレンジジュースを俺のコップに注いでくれた。
玲名さんは、こうやって誰かを甘やかしたりするのが少し上手だ。
園には、玲名さんがまだずっと子供の時代から、たくさん人数がいたらしいけれど、きっと昔からこういう役回りだったんだろう。

「あーあ、十年前に生まれて玲名さんと出会いたかったな」
「……十年前に?」
玲名さんが不思議な顔をしたので、俺は「やっぱり十年差はきついんで」と付け加えた。
玲名さんは嬉しそうに「こいつめ」と言って俺の頬を軽くつねって伸ばした。

「食べ過ぎると、夕飯が入らなくなってしまうぞ。控えめにな」
「玲名さんがたくさん作ったんでしょう」
「まあ、そうだな」
「それに、食べ盛りなので平気です」
玲名さんはすぐに残してもいいと言うくせに、俺が全部食べきると、空になった皿を見てとても嬉しそうな顔をする。もし、本当に玲名さんと俺が同じくらいの歳だったら、好きになっていたのかも知れないと、玲名さんを見ていて時々思わなくもない。

という話を今晩あたり、二週間くらい夕飯を作ってもらえていないヒロトさんに報告してみたら、ちょっと面白そうだ。