レンジでチンするだけでいいなんて本当に便利な世の中だなぁ。と、なんとなく考えながら、ミニサイズのカップに入った冷凍食品を冷凍室から何個か取り出す。これは三十秒で、これは二分、そんな風に袋の裏に書いてある時間だけレンジに入れて温めれば出来上がり。あっという間に出来上がってしまう。卵焼きと、ウインナーを焼く。今じゃおひたしや煮物だって小分けになって冷凍で売っている。色鮮やかな具材たちとかわいいバランやピックを入れたら、あとはご飯を詰めるだけだ。すでに切れ目がついている海苔をぴりぴりと切って、醤油と鰹節のかかったご飯の上に乗せる。ハート型の海苔だって市販されていたものだし、このお弁当に時間は掛かりさえするものの、手間はほとんど掛かっていない。
蓋を閉じて、ランチマットで包み、水筒にはあったかい麦茶を注ぎ入れて用意を整えたら、二つを並べて食卓に置く。いまだに寝室から出てくる気配がないので、彼の様子を少し見に行こうかと思い、エプロンを外して寝室へ向かう。


寝室の扉の前に、「新婚旅行まであと10日」と書いてある紙が貼ってある。私が頼み込んで、銀時はそれを聞いた最初こそ拒否したものの知らない間に完成されていたのだ。銀時が汚い字なりに一生懸命に書いて、文字の周りにはハートまでちりばめてあった。指摘したときはちょっぴり照れくさそうにしていたが、かわいらしいことをしてくれたものだ。
新婚旅行というものに行っていなかったと思い出したのはついこの間で、そういえばそうだっけ、と二人して特に気にしなかった。うちの場合、そういうのは別にお互いあまり気にしないらしい。しかし「新婚旅行、って今のうちしかできないだろ」とおっしゃる旦那さんの有給休暇が余ってるだとか何とかで、代わりに小旅行に行くことが決まった。銀時にしては珍しく準備をしっかりしていて、何かあるのかと思うくらいちゃんとしていたので、やはりなんだか妙だなぁと思う。行き先は温泉の名所。やっぱりこれでしょ、と意見がうまく合ったので旅行は二泊三日でちょっと遠出して温泉旅館に行くことになった。ここ最近は嬉しさを全身に滲ませまくっている私とは違い、彼の方は結構冷静なものだが、内心どう思っているかはわからない。もしかしたら私なんかは比じゃないほどに心の中では盛り上がっているのかもしれないし、楽しみすぎて却って冷静になっているのかもしれない。いやいや、なんでもいい。旅行なんてものを提案してくれたことすら、そもそも珍しい。本当にそんなことを言ったら怒りそうだ。

扉を勢いよくバンッと開けて布団にいまだもぐったままの銀時に大きな声で呼びかける。最初は、いくらなんでも私だって優しい。


「おーはーよー」

ううん、とでも唸ってみせればかわいいものだが、全く反応が無い。こういうところは本当にただのおっさんで、ぐうぐう聞くに堪えない音量でいびきをかいている。体を揺り動かしていると、突然彼の手が布団から飛び出てきてそのままぱちこーんと私の頭に当たった。あっという間に頭の中には仕返しの方法がぎょうさん浮かんでくる。起きない銀時が悪い。どう、痛めつけてやろうか……ふふ……


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