皆、明日から仕事だからともう自分の家に帰ってしまった。銀時はぐうたらテレビを見ている。少しだけ寂しさの残る我が家で、私は学生時代の五人の夏を思い出していた。




ある夏。クーラーが嫌な音を立てて壊れた高杉の部屋。やつらがブーブー言ってる間に、どうすれば手っ取り早く涼を手に入れることが出来るだろうと私は考えていた。暑い暑い騒いでいるくせにぴったりと隣に座る銀時のその手をがっちり掴んだ。


「怪談ターイム」
「は?」
「「イエー!」」
「い…い…」
「高杉無理しなくていいよ」
「…悪ィ」
「怪談ターイム」
「何言ってんの?あ、二度も言わなくて良いから、いやちょっと」
「画期的な案でしょ」
「まさか怖いのか銀時?」
「違いねェ」
「金時は怖がりじゃのー」

「ばばば馬鹿言ってんじゃねーよテメェらはどうなんだよ」
「ハッ」
「ねー始めていい?」
「ダメ〜」
「なんで?」
「なんでってお前アレだよアレに決まってんだろ」
「では俺が…それは夏の夜のことでした…」

「オイヅラなに勝手に始めちゃってんの?」
「私が言おうと思ってたのに…」
「まあまあ」
「とある銀髪の青年っぐふぁ!!何をする銀時貴様!」
「当然の報いだろ。つーかなんだ銀髪の青年って意味わかんねえんだよ限定?俺限定なの?」



キレる銀時とヅラにより室内温度が上昇した。ついでに私のイライラも増幅する。



「だったら銀時テメェが他に方法考えろよ」
「あーアレだよ、おしくらまんじゅうとか」
「それ冬じゃろ」
「…辰馬が怖い…」


辰馬はたまに別人格が乗り移ったように、冷たくて鋭い返答をする。暑さのあまり冷静になったのだろうか。日頃のイメージからは想像が出来ない。



「もういい、高杉、お前お袋殿に言ってこい」
「チッ…今気まずいんだよ」
「熟年夫婦!?」


家庭環境は人それぞれであると、私達は理解している。しかし、クーラーの使えない狭い部屋はかなり灼熱地獄寸前だ。このままじゃ茹蛸が生産されてしまう。


「あぢいいいー」
「あーもう!だったら銀時こっち寄らないでよ!」
「それはそれだろ」
「訳わかんねえこの天パ」
「冷たくない?なんか時子ちゃん冷たくない?」



暑い時に優しくなれないのは仕方ない。少しくらいクールにキメたって罰は当たらない。銀時と辰馬とヅラは、揃いも揃って頭が暑そうだ。見ているだけでガガガアアと刈ってやりたくなる。さら地にしてやりたくなる。そんな物騒な想像をしながら、適当に雑誌を摘んでページを開くと、いきなり高杉が紙面に出て来たものだから、目が飛び出てそのままスーパーボールになるかと思った。



「高杉?!え?」
「どうした時子」
「見て!高杉メンズソウルに載ってる!」
「何ィ!?高杉、貴様俺を差し置いてモデルデビューのつもりか!見せてみろ!」
「歩いてたら声掛けられただけだ」
「その割には嬉しそうじゃのう高杉」

「すごいなー高杉」
「おい揃って無視してんじゃねーぞ!」
「あんまり煩いと頭刈るよ」
「か、刈る!?」
「とにかく口を塞いでください」
「じゃあ時子の口でよろしく頼みまーす」
「今聞いた?セクハラ」
「俺彼氏だろーが!」
「女の敵だな」
「ククッ」
「そうじゃそうじゃ」






あの時は集まるだけで楽しかった。せんべいボリボリの背中にさりげなく蹴りを入れる。私は怒るのに疲れたから、とりあえず隣に座る。無性に銀時の頭を掻き回したくなって触った。ふわふわが手に優しくて、それから同じシャンプーの匂いがする。なされるがままという態度に何故かうれしくなった。明日から銀時も仕事だ。人って変わらないようでしっかり成長してる、と思った。がんばれ。


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